約 541,864 件
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/447.html
とある美琴の突撃訪問 「よしっ!!」「お姉様、なにが”よし!!”なんですの?」「わ!、く、黒子!?。な、なんでもないわよ!」「明らかに動揺してますわね。また、”ゲコ太”グッツを大量に寮に持ち込むのは止めてほしいんですの。いきなり子供っぽい趣味を止めろとはいいませんが、限度はわきまえてくださいまし」「わ、悪かったわねっ!」ここは常盤台中学学生寮のとある1室。この部屋には今、御坂美琴と白井黒子がいる。時刻は大体、夜11時くらい。この学生寮ではその時間だともう消灯の時間なのだが、美琴の方はあることがあって寝付けなかったからまだ起きている。ジャッチメントの仕事で仕方なく起きている白井に、早く寝た方が良いですわよといわれてしまった。でも、そう言われても寝付けないものは寝付けない。美琴は未だに頭が冴えてしまっている。もちろん、あることによって。美琴に敏感な白井はそれを怪しむ。「・・・もしかしてお姉様、何かあるんではないですの?」「・・・・・・・・・な、何にもないわよっ・・・」美琴はそういいながら内心ドキドキであるが、白井には絶対あんなことがあって寝付けないなどとは、ばれたくなかった。ただ自分以外に知られたくないこと、というのもあるが、特に白井の方はかなり”特殊”な人間であるからだ。どの辺りが特殊と言われると、美琴のことをお姉様と慕いその延長線上でシャワールームに飛び込んでくるくらいである。寝付けない理由が、あること、つまり”アイツとの約束”のことあってはなおさらに。もしあの”アイツとの約束”のことを話してしまったら、白井はどのような行動を取るだろうか。美琴ですら予測がつかない。だから、絶対にバレてはいけない。これは美琴にとって死守すべき事柄なのだ。美琴はなにがなんでも邪魔されたくなかった。顔を枕に心の声が誰にも聞こえないよう、埋める。息苦しかったが、口が勝手に喋るとなれば我慢しなくてはならない。寝付けないので、埋まりながら美琴は今日のことを思い出す。(危なかったわ、思わず本音がでちゃう癖は治さないとなー。・・・でも、本当にアイツと約束しちゃったのよね!)と、一人で何度も思い出す。実は寝付けない理由はこれにあるのだが、美琴はたとえわかっていても止められなかっただろう。今は夜であるが、美琴の頭の中、その約束をした時間は数時間前に遡っていた。――――――――――――――――――――――――――――――――――美琴とアイツ、上条当麻はゲームセンターにいた。とある罰ゲームで二人はゲーセン巡りをしていて、上条は美琴の鞄をもっている。そろそろ帰宅時間がせまってきたので、最後に一つだけやって帰ろうということになっていた。「あ!あれなんかどうかしら」「ん?あれってパンチングマシーン?」美琴が指したパンチングマシーンは以前、友達の佐天涙子に点数を越されっぱなしのもの。美琴も悔しくて後で何回かやってみたのだが”パンチ”では彼女の記録を越すことはできなかった。いろいろと美琴にとって因縁深いものである。美琴と上条はそのパンチングマシーンの前に行くと、スコアボートにいくつか点数が表示されていた。最高得点は100点だった。実は、キックだと、どうかなーとやってみたら100点が出てしまったので、こういう結果になっている。美琴は得点を確認した後、上条の顔を覗き込みながら、挑発してみる。「ねえ、ねえ。アンタはこれで最高記録の100点出せる?」「うーん、パンチングゲームか。やったことないけど100点ってものすごくないか?」上条は基本食いつきが悪いようだ。でも、このままでは終わらせない。美琴は追い討ちをかける。「あーら、怖気づいちゃったのかなー。アンタはこの点数が越せないって言うのかなー?」「む!いつも上条さんは目の前の敵はなるべく避けて通りますが、いいだろう。その挑戦のったー!」とても子供っぽい挑発だったのだが、上条はまんまと美琴の挑発にのる。準備運動なのか、右腕を回しながら「ああした方がいいかな?いや、こうかな?」などと言い始めた。美琴はうまく上条を乗せられたので、小さく「よし!」といってみる。が、ここで不思議に思うことが一つ浮かんだ。美琴はあの点数はかなりのものなので、誰も越せないと思っていた。実際未だに最高得点は100点のままだったし。じゃあ、なぜ自分は上条にやらせようと思ったのだろう。美琴は上条の顔を見る。なんだか心が安心するような気がした。(・・・もしかして私、期待してる!?)いつの日だったか、上条は自分を助けてくれた。もちろん、その時はかっこよかったが、今はただの上条である。美琴が上条のことが好きなのを気づかない鈍感男である。だから、ない、ないと美琴は頭をブンブンと振る。しかし、頭を振るたびに心の中の期待は高まってしまうのだった。それで、美琴は無意識の内にポーっと上条を見てしまう。「なあ御坂、俺の顔になんか付いてるか?」「いい、いや、なな、なんでもないわよ!」傍から見れば、美琴が上条に見とれていたのがわかるのだが、鈍感な上条は気づかない。美琴としては、ばれなくて良かったと思う反面、なぜ気づいてくれないのかと不満にも思う。「・・・御坂、もしこのゲームで俺が最高得点を出したら罰ゲームは帳消しってことでいいか?」「な、なに言ってんの!?アンタの寮に連れてっていう約束そんな嫌だったの?」「いや、いや!なにをそんなに怒っているのかわかりかねますがそんなわけではないです!!」自分がなぜ上条の寮に行きたいのかも、わかっていない。もう慣れたが、これは美琴も一方的な片思いだと思う。(ま、アイツなら当たり前か・・・)なんだか美琴は期待している自分が馬鹿らしくなってきた。こんなことさっさと終わらせるために上条を催促する。「とにかく!なんでもないから、早くやんなさい!。時間も少なくなってきてんだから」「わ、わかったから、ビリビリするのはやめて!」「さ、さっさとやんなさい!」少し強引な催促されて、上条は美琴を警戒しながら、パンチングマシーンに一撃を入れる体制を取る。そして、「よし、じゃあ御坂、力を借りるぞ」「え?・・・私が何て?」と、美琴に意味が分からないことを言ってきた。実は上条は美琴ならわかるかもしれないと思って言った言葉なのだが、上条の隣に居るだけで頭が一杯の美琴がわかるわけはなかった。美琴は頭の中の整理を始めるが、それが終わる前に、上条は助走をつけパンチングマシーンに突っ込んでいく。美琴が忘れられないあの言葉を叫びながら。「―っ、俺の拳はちっとばっか響くぞ!!」ズドーン!と大きな音が、ゲームセンターに響く。ゲームセンターにいた誰も彼もがその音に反応する。一方の美琴はそんなことよりも、上条の言ったセリフが頭の中を駆け巡って、オーバーヒートしていた。上条としては気合のつもりで発した言葉なのだろうが、美琴には大いに意味がある言葉である。(な、なにを言ってんのよアイツ!そ、そんなセリフ言われたら・・・・・・意識しちゃう・・・・・・じゃない!)心のどこかで期待していたせいもあって、美琴はどんどん感情が高ぶっていく。もう、自分でも顔が真っ赤になって、どんどん俯いていくのがわかる。点数とか帰宅時間とかどうでもよくなってきた。とりあえず、この状況から回復しなくてはいけないと思うが、そんなことできない。そうやって美琴が慌ててたら、上条が震える声で話しかけてきた。「み、御坂。この場合どうすればいいんだ?」上条を見てみると、顔が青い。美琴はなんだろうと思って、上条の目線を追ってみると、そこには壊れたパンチングマシーンが、静かにたたずんでいた。「逃げるぞ!!御坂!」「ちょっ!?待ちなさいよアンタ!」「―っ!ほら手ぇ貸せ!」「わ、待って!まだ、心の準備が・・・」その美琴の声を上条は聞こえなかったのか、強引に美琴の手を引っ張ってゲームセンターを離れていった。「はあ、はあ、不幸だ」「ああ、アンタ、ど、どうやったらああ、あんな力だせるのよ」美琴は上条に手を繋がれていたことで頭の大半が使用不能状態だったので、言葉の機能がおかしくなっていた。もちろん、上条はそんなことには気づいていない。美琴にとっては幸いというべきか、不幸というべきか。「そんなこと聞かれても・・・。で、お前まさか今日俺の寮に来るつもりか?」上条に言われて気づいたがそういえば何にも考えていない。「ふえ?」「いや、だから時間だっていってるの」いつの間にか時刻はもうそろそろ帰宅時間を過ぎてしまう頃だった。さすがに何の準備も無しに門限破りをするのは危険だ。それに、美琴としては上条の家に行くのにある思いを秘めているので、まだいける状態ではなかった。「え?いや、まだ準備ができてないというか・・・。そう確認しとくけどアンタ、カレーが好きなのよね」「なんの確認かわかりかねますが、確かにそういいましたが・・・御坂さん!?」「(い、い、いきなりアイツの寮ってのは、我ながらと、とんでも無い発想だったわ。で、で、で、で、でも!!アイツの寮に行けるのよね!アイツやっぱり、家庭的な子が好きなのかな?だ、だったら、カレーを作る練習をしなくちゃ!)」「御坂さーん。なにをブツブツ言ってるんですかー?」「え!?わ、わ、!!なんでもないわよ!じ、じゃあ準備ができたら連絡するから!そのときはよろしくね!!」「御坂さん!?なにをよろしくなのですかー!?」美琴はそんな上条の声を後に、一瞬にして駆け抜けていった。だって、上条にこんなこと考えているなんて死んでも知られたくなかったから。―――――――――――――――――――――――――――――――――――――(ぎゃー!?なに思い出してんのよ私!!別にアイツのことかっこいいとか、早くアイツの寮に行きたいとか考えてないわ!うん!!)美琴はあの時のことを思い出して、ベットの上でバタバタする。そして、それはとても純情乙女的な仕草であるのだが、絶賛舞い上がり中の美琴は気づいていない。そんな美琴を見て、白井は目を細くする。しかし、仕事の方を優先しなくてはいけないので、前に向きなおして自分の仕事に戻った。もちろん美琴はその白井のことなど気にしておらず、頭の中は約束のことで一杯だった。(うーん、練習した方がいいわよね。で、美味しく作れたら喜んでくれるかなアイツ。・・・な、なんかはは、恥ずかしい!!)そんなこんなで美琴は一人で悶々として、白井は変な美琴に何かを感じながら、夜は更けていった。1週間後。美琴はある修行をして準備万端で、上条をいつもの公園に呼び出した。しかし「だー!!なんでいつもの道なのに道間違えんのよ私ぃ!!」美琴は緊張しすぎて、いつも使っている道を間違えてしまい、あっち行ったり、こっち行ったりしてかなりの遅刻をしてしまっていた。携帯の地図機能を使ってみたのだか、余計に道を間違える始末。もう、美琴がいる場所は知っているところではなかった。上条からは『まだー?』と電話が来ていていたが、道を間違ってしまってなんて恥ずかしいことはいえなかった。もうちょっと待ってといったが、その電話をした時間も、もう遠く彼方である。「えーっと!こっち行って、あれ?いや、こうだ!だめだ!違う!!」と、美琴はオロオロとするが、一向に目的地にたどり着ける気配は無かった。なんだかわからないが、泣きたくなってきた。おもわず涙目になる。しかし、「なにをしてるんですか、御坂さん?」一体どうやってここに自分が居ると分かったのだろうか、何故か公園で待っているはずの上条が美琴の後ろにいた。ある意味、目的は達成したのだが、美琴としてはオロオロしていたり涙目になっていた自分を見られたのが恥ずかしい。美琴は顔を真っ赤にしながら、ただただ慌てる。「わ!いい、いつからそこに!?」「いやー、あまりに来ないもんだから探しましたよ。で今やっと御坂さんを見つけましてね」「な、なんでここにいるってわかったのよ!」「勘?」「・・・・・勘・・・」どういう意味だろうと考える。すると美琴の頭の中には赤い色をした糸が現れた。(勘ってもしかして赤い糸が、ってなな、なに考えてるの私!!・・・でも、いやいや!!)止まらない妄想に美琴自身歯止めが利かない。これが恋の病というものだろうか。なんだか顔が熱くなってきているのが美琴でもわかったが、どうやっても抑えることは出来なかった。「おい、なんか顔が赤いぞ」「あ、赤くなってなんかないってば!だ!だから!!」その原因の上条は美琴を無視して顔を覗き込んでくる。熱があるかどうか心配してくれているらしいが、むしろ逆効果である。どんどん美琴の顔は真っ赤になっていく。それにつれて上条はさらに顔の距離を縮めてくる。距離にしてわずか数センチ。(ち、ちち近いぃーー!!)「なんか赤い気がするが、大丈夫みたいだな」しかし、そんな気持ちを知らない上条は美琴が熱をだしてないか確認したのか、さっさと美琴から離れてしまった。なんだか美琴は上条に振り回されて、悔しかった。それと、もうちょっとさっきの状態でいたかった。「―っ!バカ!!」「なにが!?」美琴は上条のすねを蹴ってそっぽを向く。なんだか理不尽な気がするが、上条が悪いのだ。「で、アンタの寮に行く前にスーパーに寄りたいんだけど?」「急に蹴られたと思ったら、今度はスーパーですか。・・・なぜ?」「う、うるさい!アンタはそんなこと疑問に思わなくてもいいの!」知ってのとおり、どうして美琴がスーパーに、行きたいのかは、上条の寮でカレーを作るつもりであるからだ。もちろんそれは上条がカレーが好きと言ったからであり、美琴自身家庭的なところを見せ付けるためである。練習などは知り合いの舞夏に手伝ってもらった、というより叩き込まれている。なので、それなりの腕はあると美琴は思っていた。「ならいくぞ、って御坂?」「・・・・・・・・・」しかし、まだちょっと不安が残っていたりもする。それというのも最後に舞夏が「料理の本当の極意は自分で学べ」と意味のわからないことを言ってきたからだ。美琴は隣に上条がいるのを忘れて考え込んでしまう。(あれはどういうことなんだろう・・・食材のことかな、いやそんなんではない気が・・・)「・・・さーん・・・・御坂・・・・・・御坂さーん、聞こえてますか!」「え!?いや、なんだっけ?」「いや、ブツブツ喋ってこっちには反応してくれないから。大丈夫か御坂」「だだ、だいじょーぶ!!」美琴自身大丈夫でない気がするが、もう帰れなんて言われたら元もこもない。とりあえず見栄をはる。「そう?ならいいが。じゃあ行くか、スーパー」「そ、そうねさっさと行きましょう!」なんだか、上条の隣にいるだけでテンパッテいる気がする。美琴は落ち着こうと頑張ってみるものの、心臓の鼓動は早くなるばっかりで、収まってくれることはなかった。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/3263.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/こぼれ話 大覇星祭こぼれ話 Ⅵ 美琴「いやぁ。ツイにⅥですヨ。食蜂サン☆」 食蜂「デスよねぇー。今回はぁ、上条さんと御坂さんの絡みよりも私たちのぉ絡み、っていうかぁ、仲の良い所を披露するんだゾ☆」 上条「何そのぎこちない前セツ。とってもわざとらしくてドン引きなんだがぁぁぁああああっ!!」 寮監「ふむ。確かに仲が良さげだな。そこの少年が何を言いかけたかは分からんがクロスボンバーは息が合ってないとできない大技だ。しかも御坂の電磁力が食蜂の腕の貴金属を引き付けていたから完全に元ネタを再現している。首が飛ばなくて良かったな少年よ」 上条「……げ、げほ……あ、あのなぁお前ら……って(ええっと、どうして二人して睨みつけてきてるのでせう?)」 美琴「(このど馬鹿! アンタは寮監の恐ろしさを知らないんだろうけど、不幸な目に会いたくなかったら、今回は不用意な発言は一切、慎みなさいよ。いいわね?)」 食蜂「(上条さぁん? 本気力で御坂さんの言うとおりだからねぇ? じゃないとぉ、私も本気力で許さないからぁ)」 上条「(お、おう……てか、お前らレベル5だろ? なのにあの人が怖いのか?)」 美琴「……レベルの差が絶対的な戦力の差だなんて思わないでよね……」 食蜂「……寮監様はぁ、能力値なんて超越したところにいる、ある意味『絶対能力者』なのよぉ……」 寮監「ほほぉ。御坂と食蜂。なかなか良いことを言うじゃないか」 美琴「え、ええ。モチロンですとも!」 上条「ほへぇ。すげえなアンタ。御坂と食蜂がアンタの前だと借りてきた猫のようにおとなしくなるなんでっ――!」ごきっ 食蜂「あちゃぁ~~~寮監の得意技、首ひねりなんだゾ……」 美琴「はぁ。不用意な発言は慎めって教えてあげたのに……」 寮監「少年よ。お前は学生なのだろ? 大人の私を『アンタ』呼ばわりの上にタメ口とは礼儀がなってないぞ?」 上条「……は、はい~~~! ええっと、でも俺は貴女様のことを何と呼べばいいのでせう?」 寮監「そうだな。私にはまだ本名設定されていないから――『寮監』で構わん」 上条「わ、分かりましたっ!!」 寮監「ふむ。良い返事だ」 「初春ちゃんっ」 「美鈴さん!」 美琴「私の記憶は消去しても、私のママの事は覚えてんのね」 食蜂「ま、あくまでも改竄したのは御坂さん本人に関する記憶だけだしねぇ」 寮監「御坂のお母上は随分と若々しいな。失礼だが、おいくつなんだ?」 美琴「え? …3x歳ですけど」 寮監「そうか。つまり私と同い年の時には、すでにご結婚もなされて御坂も産んでいたのだな」 美琴「え、ええ。まぁ」 寮監「そうか。………そうか…」 上条「ものすげー、遠い目をしてるな」 「いやだから「かもしれない」だってば 常盤台には記憶を操る能力者がいるんでしょ?」 食蜂「むぅ…意外とこの子、敏感力が高いわねぇ。侮れないわぁ」 美琴「佐天さんって、何気なく言った一言が後々伏線になる時が多いからね」 寮監「ふむ。敏感で危機察知能力が高いと言う所は、少年、君に近いかも知れんな」 美琴&食蜂((敏感に察知してくれるのは、乙女心以外の部分だけどねぇ…)) 上条「え? 俺の事、知ってるんですか?」 寮監「『噂』はよく耳に入ってくる。特に寮での食事中、御坂から君の名が出ない日は無いくらいに―――」 美琴「なあああああああんっ!!!///」 「『妹達』と呼ばれる美琴ちゃんのクローン。一体ドコに隠してるのかな?」 上条「なんだと……?」 食蜂「わぁお。上条さんったらぁ、急に男の顔になっちゃったぁ」 美琴「過去の映像にそこまで怒りを感じられるって凄いわね。まあ私もちょっとむかついたけど」 上条「いや……まあそうだが……」 寮監「……」 「『絶対能力進化』計画をアナタが妨害していたのはとっくに調査済み。計画破綻後、『妹達』がどうなったか知らないわけないわよねっ。学園都市内に残ったクローン、どこに匿ってるのかなっ? 暗部の情報網をフル回転してるっていうのに『妹達』を探ると必ず途中で手掛かりが切れちゃう。どんだけセキュリティに特化した組織に預けてんのよ? ヤンナルネ」 「アンタ達が何者か知らないけど、私の友達を襲ってまで何がしたいわけ?」 食蜂「ちなみにぃ、妨害どころか、潰しちゃったのはぁ、上条さん、なのよねぇ?」 美琴「///」 上条「御坂なぜ赤くなる? って、ちょっと待ったこの話って――!」 寮監「……」 「――私に言わせれば、こんな街でノウノウと暮らしていられる美琴ちゃんの方がよほど異常だけど」 「だってホラ、今まで色々見てきたでしょ? 『絶対能力者』を生み出すために為されてきた非人道的行為。『置き去り』を使った人体実験、交渉人を使ったDNAマップの搾取――」 上条「だああああああああ! 絶対にまずいだろこの話! 御坂や食蜂はともかく、そちらの寮監さんは――!」 美琴「――――、知ってるに決まってるでしょ」 食蜂「学園都市でもぉ、機密力が段違いの学舎の園で働いているのよぉ。それも常盤台なんだしぃ。理事会に立ち会う事もあるからいくらでも噂は耳に入ってくるわぁ」 寮監「果てしなくこの話オリジナル設定のような気がするがまあそういうことだ」 上条「何? 知ってるだと?」 寮監「ん? お前、また言葉遣いが――」 上条「そんなんじゃねえ! テメエ! 知っているなら何故止めなかった!! テメエはそういう立場に居られる『大人』じゃねえのかよぉぉぉぉおおおっ!!」ごききっ! 寮監「言ったはずだ。言葉遣いに気を付けろ、と」 上条「あががががが……け、けど……」 食蜂「あのねぇ上条さん? だからぁ、寮監はぁ、寮則、特に『門限』に厳しいのよぉ?」 上条「……へ?」 美琴「子供のケンカじゃあるまいし、寮監一人で学園都市上層部に歯向かえるわけないじゃない。だから、寮監は上を止めるんじゃなくて、子供たちを危険な目に合わせない方を選んだの。分かる? じゃあ子供たちを危険な目に合わせないためにはどうするのが一番かしら?」 上条「……危険な場所に近づけさせないこと……?」 食蜂「そういうことよぉ。何も立ち向かうだけが『正しい』ことじゃないってことなのぉ。特に大人になれば『大人の事情』ってものがあるしぃ、そんな中でも寮監は自分のできることで最善の方法を選んだ、ってことなんだゾ☆」 上条「そ、それはそうかもしれないが……」 寮監「ふぅ……少年よ。では聞くが、私が学園都市上層部に意見したらどうなる? よくて学園都市追放、最悪、闇に葬られる可能性があるわけだが、そうなったら誰がこの悪ガキどもの面倒を見るのだ?」 上条「すんません……」 「黒子ならきっとママを助けてくれるって信じてたからさ」 食蜂「あらぁ、フラグの建設力がビンビンねぇ。このまま百合力を全開にして、白井さんルートで攻略したらぁ?」 美琴「…アンタ分かってて言ってるでしょ。黒子の事は大切に思ってるけど、そこに恋愛感情とかは一切無いわよ!」 ??「そんなお姉様! わたくしはいつでもお姉様と愛の契りを交わす準備はできぎょぐえっ!!?」ゴキッ 寮監「ふん」 上条「おお、すげぇ! ??の首が変な方向に曲がっとる!」 美琴「……電撃ツッコミしないで済む所だけは、寮監がいて良かったって思うわ」 食蜂「下手したらこの人、第一位や第二位にも素手力だけで勝てるんじゃなぁい?」 「はっ 放してくださいましっ わたくしにはそのような趣味はありませんのぉ~」 寮監「まったくそうは見えんな」 上条「記憶が無くても白井は白井って事ですかね~…」 ??「ああん、我ながら勿体無い! お姉様と密着しておきながら何もしないなんて…今ならばお姉様の体という体を全身くまなくぎゃぼらばぁっ!!!」ギュルグキャゴキボキベキッ 上条「……明らかにヤバい音出ましたけど、大丈夫なんですか…?」 寮監「中途半端なだとすぐに復活するからな。少し強めにしておいた」 ??「お…姉さ、ま……がくっ…」 美琴「ねぇ、黒子から私への邪な感情だけ消す事ってできないの?」 食蜂「無理ねぇ。白井さんの変態力はすでにレベル6級だしぃ」 上条「ま、まぁそれだけ想われてるってのは幸せな事なんじゃないか?」 美琴「アンタならともかく、黒子に想われても意味は無―――」 上条「えっ? 俺だと何で意味があるんだ?」 美琴「のぉおおおおおわああああぁぁぁ!!! ななな何でもない何でもないっ!!!///」 「あの…妹さんをさらった人――食蜂操祈さんでいいんですよね?」 「うん…それは間違いないと思う」 食蜂「人聞き悪いなぁ、御坂さん」 美琴「分かってるわよ。アンタは『さらった』んじゃなくて『保護した』んでしょ」 上条「なんだ良い奴じゃないか。そっかそっかエライぞ、食蜂」なでなで 食蜂「いっやぁ~~~ん☆ 上条さんに褒められた上に頭なでられちゃったぁん☆」 寮監「ほぉ。食蜂でも素直に嬉しそうな表情を見せるときがあるのだな」 美琴「……」 上条(うわぁ……この辺でやめとこ。寮監の後ろから御坂がとぉっても怖い顔で睨んでおられます……) グンッ 「だからソイツを私にぶつけろっつってんのよ!! なんで…ッ」 食蜂「下乳力で上条さんを誘惑しちゃうゾ☆」 上条「う、うん。あの、えーと……うん(だ、駄目だ! どうリアクションしても不幸な未来にしかならない気がする!)」 美琴「アンタねぇ…そんな茶化せるようなシーンじゃないでしょ、ここは!」 食蜂「え~? でもせっかくサービスカットだしぃ。自分がはみ出せないくらいちっぱいだからって、そんなに嫉妬力出さないでくれるぅ?」 美琴「よーし、その喧嘩買ってやるわ―――」 寮監「……喧嘩を何だって…?」 美琴&食蜂「「……ナンデモナイデス」」 「協力? 信頼? なんでそんな不確かなものを信じられるのかしらぁ? 人の言うことを安易に信じた末路が『量産型能力者』計画と『絶対能力進化』計画じゃない」 「ッ……」 「私は協力者の頭の中を必ず覗くわよ? 思惑の有り様、営為の規範、場合によっては感情も行動も操縦するわ」 「何考えてんだがわからないアナタと組む気なんてはなからないの」 寮監「……ある意味、食蜂の能力の悪い弊害、だな……はぁ……まあ、言ってることは分からんでもないが……」 食蜂「さすが寮監様ぁ☆ 『理解者』ってありがたいわぁ」 美琴「ふーん。てことはアンタ、コイツとも相性良くないってことよね? コイツにもアンタの能力は通じないわけだし」 上条「あーそうなるよなー。まあ、そういう事情があるんなら仕方ないは仕方ないが」 食蜂「――!? ち、違うわよぉ!? 上条さんはトクベツなんだから頭の中が読めなくてもオールOKなんだゾ☆」 寮監「食蜂、無理するな。お前の考え方ではこの少年とは相容れることはないのだから諦めろ」 食蜂「ちょっ! 寮監様!?」 美琴「そうそう。でも安心して。アンタの分まで私が」 上条「は? 『私が』?」 美琴「――っ!! ななななななな何でもないわよ何でも!?///」 上条「?」 寮監「なあ食蜂? 今の御坂ならお前でも頭の中が覗けるんじゃないか?」 食蜂「そうですねぇ。ていうか、今の御坂さんの頭の中を除くのに能力は必要ないんじゃないですかぁ?」 「そこに木原玄生がいるのね」 「妨害力さえ発揮しなければここで見ててもいーのよ?」 「冗談。誰かの犠牲なしには何もできないヤツらに引導を渡してやるわ」 上条「お? それでもお前ら二人で突入か。熱い展開だな。例えるならジョナサンとディオが組むようなものか」 美琴「当然、私がジョナサンよね!」 食蜂「あらぁ? 私は別にディオでもいいわよぉ?」 美琴「え、そうなの? でもなんで?」 食蜂「決まってるじゃなぁい。ディオならぁ、この場合、エリナ役が上条さんになるからぁ、上条さんにズキュゥゥゥゥゥゥゥン!!できるってことでしょぉ? それで上条さんにこう言うのぉ。『御坂さんとはまだキスしたことないよなぁ? 初めての相手は御坂さんではなぁい! この食蜂操祈だぁっ!』って」 美琴「うわなんだろ? 思いっきり嵌り役っぽかった」 食蜂「ちょっとぉっ! ここは御坂さん、ムキになるところよぉっ!?」 寮監「お前ら、実は仲良いんじゃないか?」 上条「逆に考えるんだ。『仲良くなっちゃってもいいさ』と」 (食蜂!?) キョロキョロ (いない。ここまでは一本道、はぐれるはずが――嵌められた!) 美琴「そんな風に考えていた時期が私にもありました」 上条「何だ? その『ふーやれやれ』って自嘲してる顔は」 寮監「深読みし過ぎたんだろうな。ここは逆に食蜂の能力があれば良かったと思える場面かもしれん」 食蜂「……それって全然褒めてないですよねぇ……寮監……」 (調子のいいこと言って誘い込んだつもりかもしれないけど、やるってんなら全力……で?) 「ちょ……ゼー…ちょっとぉ、待ちなさいって……ゼー…言ってる…じゃない…ゼー…注意力とかないわけぇ…ゼーゼー…ひとりで勝手に盛り上がってんじゃ…ないわよ……」 上条「あー……さっきの熱い展開が台無しだな……心なしか、目の中のキラキラも霞んでるし…」 美琴「いやー真面目に応戦しようとした私が恥ずかしいわ。うん」 寮監「食蜂? お前も少しは運動したらどうだ?」 食蜂(うぅ…何かドヤ顔の御坂さんが腹立たしいんだゾ) 「全力ダッシュしてんじゃないわよ……」 「いや…ジョギングくらいだったと思うけど」 美琴「アンタはどう思う?」 上条「まあ俺にも御坂のペースはジョギング程度かな、とは思った」 食蜂「い、いいの!!/// 私は御坂さんと違って、野蛮力は必要ないんだからぁ!!///」 寮監「しかし食蜂よ。あまり運動しないのはマズイと思うぞ。成長期の今は良いが、成長期が終わった後、運動不足が常態化すると胸以外のところも膨らみ始めるからな」 食蜂「うわぁ。真面目にネガティブな知識力だしぃ」 上条「つーか、御坂の全力ダッシュはこんなもんじゃないってことは俺が一番知ってるぜ」 寮監「ん?」 上条「天下の逃げ足王たる俺が引き離せないんだからな。今は記憶を失くしたんで確かじゃないんだが、御坂曰く、俺を一晩中、追っかけたことがあったらしいし、御坂の全力ダッシュははがっ!?」 美琴「(このど馬鹿!! 寮監の前で何を暴露してやがんのよ!! アンタ私を殺す気!?)」 上条「(わ、悪かった悪かった! と言うか、ヘッドロックを解いてくれ!? 上条さんの顔に御坂さんの胸が、胸がー!!)」 美琴「(!!!!?!/// ば、馬鹿!! こんなときに何考えてんのよアンタは!!///)」 寮監「御坂? 何か今不穏な単語が聞こえたような気がするが?」 美琴「きききききき気のせいですよ気のせい!! ほら、コイツも『記憶がない』って言ってたから何かと勘違いしてるんですよ!!」 寮監「そうか。ならいいが」 食蜂(その時の様子を寮監の頭に書き込んじゃおうかなぁ……でも『能力』を使うと後が怖いからやめとこ) 「ま…まぁー、御坂さんとは部分的な重さが違うしぃー、そっちは空気抵抗も控え目だからー」 ピキ 「この苦労はわからないわよねー」 「…つーかさ――アンタが運痴なだけでしょ」 …… 「はァーーーッ? はァーーーッ?? 誰が運…ッ」 「そーいやアンタが体育の授業を受けてるの見た記憶がないわね」 寮監「食蜂? お前、ちゃんと授業を受けていないのか?」 食蜂「ち、違いますよ寮監様ぁ! 私と御坂さんの受けてるカリキュラムが違いますしぃ! たまたま時間が合わないだけなんですよぉ!!」 美琴「そうなの? でもこれで一年と半年以上は経過してるのに一度も見た記憶がないってのはおかしくない?」 食蜂「そ、それはぁ! 御坂さんの記憶力に致命的な欠陥があるせいなんじゃないかしらぁ!?///」 上条「食蜂も御坂と似てんなぁ。負けず嫌いと言うか、負けを認めたくないって気持ちで溢れ返ってんぞ」 食蜂「ち、違うもぉん! 本当に授業をサボってなんか―――」 美琴「あ、でも大覇星祭初日に、『午後の競技は能力でぜんぶキャンセルさせてもらった』とか言ってたわね」 食蜂「ちょ、まっ…み、御坂さん!!!」 寮監「………ほう…?」 上条「あ。寮監さんのメガネが今、光ったぞ」 美琴「指も鳴らし始めたわね」 食蜂「い~~~~やぁ~~~~~!!!!!」 「なによっ 運動能力がいい人がエラいの? 小学生? あぁ~そんなだから体型もお子様なんだぁ?」 「たっ体型は関係ないでしょうがあッ!! アンタこそその目のキラキラ何? 少女マンガ?」 「生まれつきですぅー! 人の身体のコト バカにしちゃいけませんって習わなかったのぉ?」 「どの口が言うかッ!!」 上条&寮監「「……………」」 食蜂「え、え~っとぉ…」 美琴「あの…せめて何か言って欲しいんだけど……」 上条「……子供か」 寮監「はぁ~~~…お前ら…」 美琴「ま、まぁそういうリアクション…よね。そりゃ」 食蜂「正直力で言っても、今、自分で見ると恥ずかしいもんねぇ…」 「うー科学万能の学園都市でよりによってこんなの引き当てるなんて―――不幸だぁー…」 寮監「『おまもり』か…確かに学園都市では手に入りにくい品だな」 上条「でしょー!? 運営委員も、こんな意地悪なもん書かなくてもいいのに…」 美琴「でも全く無いって事もないでしょ? 神学系の学校もあるし、外部からのお客さんだっているんだし」 上条「簡単に言うけどなぁ…この時上条さんがどれだけ走り回ったと思ってんだよ…」 食蜂「私に言ってくれればぁ、能力を使ったローラー作戦力ですぐに見つけてあげたのにぃ」 美琴「…それは反則でしょ」 上条「あ、そうだ。御坂は持ってないのか? お守り」 美琴「え? 持って無いけど……でも何で?」 上条「いや、前に好きな奴がいるとか言ってただろ? 恋愛成就とか縁結びのお守りって持ってないのかな~と」 美琴「な、無いわよそんなの!(……でも今度買っておこう…あ、そう言えばお守りじゃないけどひょっとしてアレを渡すチャンスなんじゃ……!///)」 ??「おねーたま☆ ヒーローさんが恋愛成就とか縁結びのお守りって言ってんだから、ハワイで買ったリングを渡そうよ。ほらほら♪」 美琴「にゃああああああああああ!! アンタはいったいどこから湧いて出たぁぁぁぁああああああああああああ!!!///」 上条「リング?」 美琴「な、何でもないわよ! 何でも!!(ほらさっさと帰る!!)」 ??「ぶーぶー」(強制退場) 食蜂「さすが(三次計画の、とは言え)妹達の一人ねぇ。御坂さんの思考を完璧力に読みとってたわぁ」 「わかった えーと…」 「あ 佐天です」 「こっちは上条当麻 ありがとな必ず返すから」 美琴「…ふーん? こうやって佐天さんにもフラグを立ててたって訳ね」 上条「いやフラグって…借り物競争ん時にお世話になっただけだって後夜祭でも言っただろ。つか、今さっき見たろ。何でちょっと不機嫌になってんだよ」 美琴「だって…」 食蜂「ま、気持ちは分からなくもないけどねぇ。でもこの程度力でイチイチ目くじら立ててたら、キリがないわよぉ?」 美琴「ぐっ…! まぁ、そうだけど…」 寮監「何だ? この少年はそんなにも軟派な男なのか?」 美琴&食蜂「「ええ。そりゃあもう」」 寮監「……お前達が息ぴったりになる程か」 上条「上条さんは紳士なのですが…何故に誰も信じてくれないのでせう?」 「おおっ! 発見 ひょっとして今日の上条さんツイてるんじゃ…」 上条「そんな風に考えていた時期が俺にもありました。(まさか二日連続で事件に巻き込まれるとは…)」 食蜂「ま、この後とんでもない事になるものねぇ」 美琴「うっ!」 寮監「例の、御坂が木原の実験で暴走する話か。全く…普段から気を引き締めていないからそんな事になるのだ。根性が足りんぞ、根性が」 上条「……ものすげー聞き覚えのある台詞だな…」 美琴「ううぅ…返す言葉もないです…」 食蜂「根性力でどうにかなる事でもないと思うけどねぇ」 「まぁ最悪 御坂さんの野蛮力が必要になるかもしれないしぃ」 美琴「野蛮力ってどういう意味だコラァ」 食蜂「言葉通りの意味よぉ。て言うか、今アナタが発揮してのが正にそれねぇ」 美琴「ああ゛ん!?」 食蜂「やだ、こっわ~い」 寮監「ほう…? 怖いか。それは私に一撃を食らう以上の恐怖なのか?」 美琴「食蜂さん。私達って親友よね」 食蜂「ええ、勿論。私、御坂さんの事は心から尊敬力を感じてるものぉ」 寮監「良し」 上条「…もしかして寮監さん一人いれば科学サイドの争いを全部止められるんじゃね?」 「大丈夫よぉ☆ その点は胸囲力が戦闘力に吸い取られたアマゾーンがいるから心配しなくていいゾ♪」 「誰のコトかな?」 美琴「体力が全部、胸に吸い取られたような奴に言われたくないわね」 食蜂「ぷーくすくす! それって負け惜しみにしか聞こえないんだけどぉ?」 寮監「……………」 美琴「って言うのは冗談でよね!? 食蜂さん!」 食蜂「勿論よぉ! ほら、握手握手!」 寮監「良し」 上条(一応握手してるけど、二人とも手に力が入ってるな…) 「ヤツらの真の狙いは 御坂美琴だ」 食蜂「……上条さんの性格力は知ってるから御坂さんが特別って訳じゃないんだろうけどぉ、こうして御坂さんの名前が出ただけで直球力で現場に駆けつけるっていうのは、流石に嫉妬力が湧き出ちゃうわねぇ」 上条「嫉妬って何だよ。誰かが困ってたら普通助けるだろ? それが御坂なら尚更だ」 食蜂「…むぅ~!」 美琴(食蜂の言う通り、これが私じゃなくてもコイツは助けに行くんだろうけど……でもやっぱり嬉しいな…///) 食蜂「ちょっとぉ! なんで『御坂さんならな尚更』なのかなぁ!?」 上条(あれ? そう言えば何でだろ? 今、自然と口を付いたような……) 食蜂「私のときもぉ! 私のことを覚えてなくても助けに来てくれたのにぃ!! なのに何で『御坂さんなら尚更』って言ってんのかなぁ!?」 美琴「あんまり深く考える必要ないんじゃない? どうせコイツのことだから『御坂なら尚更』は『知ってる人なら尚更』くらいでしかないわよ」 上条「え? まあそう、かな……?」 食蜂(うわ。意外なところから意外な援軍なんだゾ☆ 御坂さん自身は気付いていないみたいだから絶対に言ってやらないけどぉ) 寮監「……なるほど。これが噂の無自覚フラグ能力か。私もあと5~6年若ければ、コロッとやられていたかもしれないな」 上条「え? 寮監さん、今でも充分若くて美人じゃないですか」 寮監「えっ!!? そ…そう……かな…?///」 美琴&食蜂「「うぉおいっ!!!」」 ざわっ 「その子に何をしたァッ!!!」 「第一候補の影に隠れた統括理事長【アレイスター君】のお気に入り、その眠れる力を覚醒させる起爆剤に使うのはどうだろう」 寮監「ふむ。噂には聞いたことがあったが木原玄生が語ってことは確かな話なのだな」 食蜂「すっごぉ~い。これは本気力でビックリなんだゾ☆」 美琴「え、ええっと……そうなの……? もしかして、ひょっとして、私が絶対能力進化実験のときに夜な夜な研究施設を潰し回ったことが大目に見てもらえたのはそういうことだったのかな…………?///」 寮監「……何? 夜な夜な何だって?」 美琴「!!!!?! なななな何でもないですよ何でも!?」 食蜂「あぁ。そう言えばぁ、夏休みのある時期ぃ、御坂さんが夜中に寮から抜け出す姿を何度か見た気がするぅ」 美琴「ちょ、まっ…しょ、食蜂!!!」 寮監「………ほう…?」 上条「あ。寮監さんのメガネがまた、光ったぞ」 食蜂「指も鳴らし始めたわねぇ」 美琴「いぃぃぃぃやぁぁぁあああ!!!!!」 「御坂君は天上の意思に辿り付けるかな?」 寮監「……角、生えてるな」 食蜂「悪役力、丸出しねぇ」 美琴「し、仕方ないでしょ!? 私だって、なりたくてああなった訳じゃないんだし!」 上条「大丈夫。俺が必ず助けてやるから」 美琴「…あ、うん………ありがと…///」 食蜂「いや、助けるも何も、これもう終わった事なんだけどねぇ。しかも上条さんも当事者だしぃ」 寮監「野暮な事は言うべきではないぞ食蜂。せっかくのいい雰囲気なのだから、そっとしといてやれ」 食蜂(だからこそ、ぶち壊したいんだけどぉ…) 上条「今回はここまでか?」 食蜂「まぁ、丁度9巻が終わった所だからねぇ」 美琴「そろそろ大覇星祭編もクライマックスね…寮監はこのまま残られるんですか?」 寮監「いや、私はここで失礼させてもらおう。仕事を抜け出して来たから長居はできん」 美琴「そうですか…(良かった…)」 寮監「……おい御坂。今心なしかホッとしなかったか…?」 美琴「(ギクッ!)ししし、してないですしてないです!」 食蜂(してたわねぇ) 上条(してたな) 寮監「…ふん、まぁいい。ではな」 美琴「は~い! …はぁ、やっと帰ってくれた……何かどっと疲れた…」 上条「今日は緊張しっ放しだったもんな」 美琴「そうね………で食蜂、アンタは帰んない訳?」 食蜂「ええ、そうねぇ。だって私ぃ、次回力のゲストだもぉん」 美琴「はぁっ!!? 次も!? アンタ連続で何回ゲストやってんのよ! 準レギュきどりかっ!」 食蜂「この話は私の影響力が大きいんだから、仕方ないでしょぉ!? 上条さんだってぇ、私がいた方が嬉しいわよねぇ?」ムギュ 上条「え、あ…あー、うん…まぁ…」 美琴「くおらぁ! 何デレデレしとんじゃ! てか、引っ付いてんじゃないわよ! 羨ま…じゃなくてっ!/// うっとうしいじゃない!」 上条「デ…デレデレなんぞしておりませんですのことよ!? 証拠にホラ、ミコっちゃんにもギュ~ッ!」 美琴「にゃああああああっ!!! 急に抱き締めんな馬鹿っ!!!///」 食蜂「あ、ちょっとぉ! 私が先に抱擁力いっぱいに抱き締めてたんだからぁ! 横取りしないでよぉ!」 美琴「よよよ横取りとかっ!!! してないし!!!///」 ??「何だ? 鯖折りすればいいのか?」 食蜂「…へ? 何か今後ろから声ぎゃあああああああああっ!!!!!」 ??「どうした金髪女。もうギブアップか? 根性が足りねーぞ!」 食蜂「折れる折れる折れる! ギブギブ、放してお願いいいいぃ!」 ??「仕方ないな…そら」 食蜂「げほげほっ! あー…死ぬかと思ったわぁ……一体誰よぉこんな事したのはぁ!」 ??「俺だ」 美琴「ゲッ! アンタは…」 食蜂「うわ~、あなたかぁ…通りで馬鹿力な訳よねぇ…」 上条「お前は……削板軍覇!」 削板「よう! 久しぶりだな上条!」 上条「って事は…軍覇が次のゲストなのか!?」 削板「知らん」 上条「えっ?」 削板「よく分からんが、ここに行けって言われたから来ただけだ。何をやるかは俺も知らんから、ゲストかどうかも知らん。何やってんだお前ら?」 上条「………」 食蜂「……こいつはこういう奴よねぇ…」 削板「ん? よく見たら一緒に選手宣誓した女じゃねーか。それにもう一人の方は電撃女」 美琴「あー…久しぶりねー…」 上条「御坂、知り合いだったのか? この後の話では御坂と軍覇って会話もしてないはずだよな」 美琴「その前に会ってんのよ。偽典でね。その時はお互いに名前も知らなかったんだけど……でもそうか。食蜂と一緒に選手宣誓したって事は、レベル5だったのね。道理で滅茶苦茶な訳だわ…」 上条「そ、そっか。それだけか(…あれ? 何か今、俺ホッとしたような気が…?)」 食蜂「という訳でぇ、次回力のゲストは私とナンバーセブンでお送りするわぁ」 削板「おう、任せとけ! …で、結局何するんだ?」 食蜂「……黙って突っ立ってればいいんじゃなぁい?」 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/こぼれ話
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/2391.html
ビリビリがデレデレでドキドキするツンツン頭 それは白井の買ってきた、一冊の本から始まった「催眠術?」「そうですの。 お姉様こういうのお好きでしょう?」 怪しい。 普段この手の話を振ってくるのは佐天の仕事で、 白井は 「またくだらない事を…」 と苦言を呈する役どころである。「…黒子、アンタ何か企んでない?」「そそそそそんなことはありませんの!!! わたくしはただ、お姉様のお暇を少しでも潰せればと思いましてですね!?」「ふ~ん…」 確かにちょっと興味はある。 白井は何かよからぬ事を考えているのだろうが、いざとなれば電撃を浴びせればいい。 ここはあえて、話に乗る事にした。「で? 具体的にはどうするの?」「(ホッ…)少々お待ちくださいまし…この本によれば、まず五円玉とタコ糸を用意し―――」「ストップストーップ!」「何ですの?」「まさかとは思うけど、糸で吊るした五円玉を揺らして、 『あなたは段々眠くな~る』とか言うんじゃないでしょうね!?」「おや、ご存知でしたの? 流石はお姉様」「いやいやいや! それ前世紀に流行ったヤツでしょ!? この最先端技術の塊の学園都市で、そんなモン信じるんじゃないわよ!!」「ですがこの本の著者は長点上機学園の卒業生ですの。信憑性はかなり高いかと」「マジで!? 一周回ってバカってパターンじゃないのそれ!?」 美琴は少し安心した。 いくらなんでも、こんなので引っかかりはしないだろう。「はぁ…まぁいいわ。ちゃっちゃとやってみれば?」「では行きますの。……あなたは段々眠くな~る、段々眠くな~る……」「全くもう、そんなの本当に効くわけがなスピー…」(効いたああああぁぁぁぁぁ!!!) まさかの展開に、白井も若干引き気味だ。 白井本人もどこか半信半疑だったのだろう。 この本が本物なのか、美琴がアレなのかは分からないが、とにかく美琴は爆睡中だ。「(いえ、まだ成功したとは言えませんの。本番はこれからですわ) 3・2・1で目覚めたら、あなたは語尾に、『黒子大好き』と言ってしまいますの。3・2・1・ハイッ!」 白井がパチンと手を叩くと、美琴目を覚ました。「いでしょ黒子大好き」「ぶふぉ!!!」「急にどうしたのよ黒子大好き?」「な、何でもありませんの……」 自分で命令したくせに、身悶える白井。 普段聞きなれていないため、(というより、美琴が普段絶対に言わない言葉のため)免疫がなかったのだ。「それにしても、やっぱりその本インチキね黒子大好き。実際私は催眠術なんて掛かってないし黒子大好き。 ま、いい暇つぶしにはなったんじゃない黒子大好き?」「ふぉ、ふおおおぉぉぉぉ」「……何変な声出してんのよ黒子大好き」 どうやら催眠術に掛かっているという自覚はないらしい。 「(こ、これは使えますの!!)で、ではもう一度、あなたは段々眠くな~る、眠くな~る……」「だから効かないってば黒子だクカー」「ゴクリ……ではお次は、3・2・1で目覚めると、あなたは己の欲望剥き出しにして、本能の赴くままに行動してしまいますの!! (そうすればお姉様はわたくしに……ウヒヒヒヒィィィィ!!!) 3・2・1・ハイッ!」「い好き……黒子」「わ、分かっておりますわお姉様!! 黒子はもう準備万端ですのよ!! さあ! わたくしの胸にダイブしてくださいまし!! 愛のままにわがままに 僕は君だけを傷つけませんのおおお!!!!!」「何、訳の分かんない事言ってんのよ。それよりちょっと出かけてくるわね」「ジュッテ~ィンッッム!!!………………………はい?」「だから、出かけるって言ったの」「え…いやしかし…愛する黒子を置いてどちらへ…?」「誰がアンタを愛してるって? 私が愛してんのは当麻だけよ」「は…い…?」 美琴の口から出てきた暗号に困惑する白井。 11次元を瞬時に演算するその脳を必死にこねくり回し、その暗号を解読していく。 当麻とはあの類人猿の事だろう。ではその類人猿を愛しているとはどういうことか。 先程の催眠術を思い出してみる。白井は美琴にこう言った。 『あなたは己の欲望剥き出しにして、本能の赴くままに行動してしまいますの!!』、と。 つまり、普段素直になれない美琴が、内に溜めている感情を爆発させた結果、こうなったという訳だ。 そしてその彼女が『出かける』という事は……「ハッ! お姉様の貞操が危ない!! お姉様、ちょっと待ってくださいまし…って、もういねええええええぇぇぇぇ!!!!!」 白井が我に返ると、美琴はすでにいなかった。「だーくそ! こんなことなら、『黒子を好きになる』って暗示をかければよかったですの!!!」 今更悔やんでも後の祭りだ。 白井は慌てて美琴の後を追った。 第7学区のひと気のない公園で、ベンチに座りながらケータイを弄る男が一人。 「本日のお買い得情報」が載っているサイトを眺めているのは、何を隠そう上条当麻である。 いつもの様に補習で遅くなった上条は、 いつもの様にスーパーで買い物してから帰ろうかなと思っているところなのだ。(へ~、今日は鶏もも肉とレタスが安いのか… 照り焼きにでもして、余ったら明日の分に……いや、余んないか。インデックスがいるし) と、主夫スキルがどんどん高くなる上条。ボーっと考えていたせいで、 何者かがこっちに猛ダッシュしてきていることに、全く気が付かなかったのである。 いきなり横っ腹に衝撃が走る。 この感覚は身に覚えがある。8月31日のあの時だ。「おぐあぁ!!! ……み…美琴か…?」 振り返ると、確かにそこに美琴がいた。 だが何か様子がおかしい様な…?「えっへへ~… 当麻、見~つけた! もう、寂しかったんだから~!!」 と、言いながら、顔を自分の胸に埋めてスリスリしてくる。 何かどころでなない。確実に様子がおかしい。「誰!!!?」「もう! 誰って美琴よ! 当麻のことがだ~い好きな、御坂美琴です!」「いいや違うね!! 絶対アンタとは『はじめまして』だね!! 俺の知らない妹達の誰かか!? それともまた御使堕しか!? じゃなけりゃタチの悪いドッキリだ!!」 この男も大概ひどい。「むぅ…どうしても信じてくれないの?」「当たり前だろ!? とりあえず、美琴は俺のこと好きとか言わねーよ! 『言っとくけど、アンタのこと好きでも何でもないんだからね!? 勘違いしないでよ!』が口癖のヤツだぞ!?」 それが口癖な時点で普通は気が付くのだが。 そこが世の女性達を悩ませる、上条クオリティなのだろう。 美琴は上条に抱きついたまま、上目遣いでぽそっと呟いた。「じゃあ…証明してあげる。私がアンタをどれだけ好きかって……」「みk……!!!!!???」 ベタに「チュッ」という音を立てて、上条は唇を奪われた。 あまりにも突然かつ予想外の出来事に、脳が追いつかず、上条はただ呆然と立ち尽くしていた。 だってファーストキスだもん。「へへへ~…当麻と初めてチュウしちゃった♡」「な……バ……オマエ………」「今日は初チュウ記念日ね♪」「いや…あの……え、と………」 絶対におかしい。 これは手遅れになる前に、何とかしなくてはならない。 (すでに色々と手遅れな気はするが) 上条は美琴の肩を、ガッと掴んだ。「美琴」「なぁに?」「これから、オマエの体の色んなところを触ることになるけど……大丈夫か? 嫌じゃないか?」 事情を知らない人が聞いたら、完全に変態である。 だがそんな変態の言葉を、美琴は拒むどころか、「えっ!? う、うん……少し恥ずかしいけど……いいよ…当麻なら…… で、でも……私…初めてだから……あの…優しくしてください……///」と、顔を赤らめながら訳の分からない事を言ってくる。駄目だこいつ…早くなんとかいないと… 一方そのころ、白井は美琴の足取りを追って街を飛び回っていた。「手遅れになる前に!! お姉様をお護りしなければ!!」 お前が蒔いた種なのだが。 美琴の行きそうなところをくまなく探していると、いつものファミレスで初春と佐天の姿を見つけた。 なにやら二人は、初春のノートパソコンの前で、大いに盛り上がっている様である。 初春ならば、学園都市内の全ての監視カメラをハッキングすることなど造作もない。 もはや手段など選べない。白井は急いでファミレスに入った。「いらっしゃいませ~! 一名様ですか?」「ツレがおりますので!!!」 ウェイトレスを軽く睨み、初春達のところへ駆けつける。 あまりの迫力に、ウェイトレスさんは半泣きである。かわいそうに。「初春さん!? ちょっとよろしいですの!?」「あっ! 白井さん、ちょうどいいところに!! ちょっとこれ見てくださいよ!」「いえいえ、それよりもこっちが先ですの! 何しろお姉様が危」「その御坂さんが面白い事になってるんですって!!」「ない………何ですって?」 佐天が言う「面白い」は、基本ろくなことがない。 嫌な予感がしつつも、白井はディスプレイを覗いてみる。 初春と佐天が見ていたのは、「L・O」と名乗る少女のTwitterのつぶやきであった。『とある公園で美琴お姉様とあの人がイチャイチャなう、ってMはMはつぶやいてみたり!! しかもお姉様ったらチュウまでしてたの!!ってMはMはお姉様の大胆さに胸をキュンキュンさせてみる!!』 レベル5の第三位である御坂美琴は、表の世界では学園都市一有名な能力者だ。 故にこのツイートに対しての反応はハンパなく、2chではスレが乱立し、Yahoo!ニュースにまで取り上げられていた。 白井が寮を出てからまだ数分の出来事である。ネットって怖い。 白井は真っ白になりそうな頭を必死で動かし、その公園へとテレポートした。 気をつけろ上条。鬼が来るぞ。 そんなことになっているとは夢にも思っていない上条は、容赦なく美琴の体をまさぐっていく。「唸れ、俺の幻想殺し!! 美琴を元に戻したまえ~~~!!!」「…あっ……んっ……はぁ…あ……当…麻ぁ………ら…め…………んあ! はぁん!!!」「変な声出さないでぇぇぇぇぇ!!!」 非常にエロい。そりゃ噂にもなるだろうよ。 まだ明るいうちから、公園で何やってんだよ。 おかしい。 あっちこっち…それはもう身体中触ってみたが、一向に右手が反応しない。 美琴が変なのは間違いないのだが、そこには異能の力以外の何かが働いているということだろうか。 だがそれよりも問題は……「はぁ…はぁ…当麻ぁ………もっとぉ………」 うっとりと顔を上気させ、潤んだ瞳で上目遣いし、やわらかい唇から聞こえてくる、甘えた言葉が耳をくすぐる。 中学2年生とは思えない妙な艶っぽさに、自称紳士な上条さんの理性も崩壊寸前だ。(おおおお落ち着け俺ぇぇぇぇ!!! 美琴は今、普通じゃないんだ!! こんな時は7の段を数えて心を静めろ俺!! 7×1がシチ、7×2ジュウシ、7×3ニジュウニ、7×4サンジュウゴ……) 相当テンパっているらしい。「…続き……しないの…?」「な、何のことですかな!? 続きも何も、上条さんは別にやましいことは何ひとつしていませぬぞ!?」「私…もう……ガマンできない…!」「してくれぇぇぇぇ!!! あ、いや、今の『してくれ』はそういう意味じゃなく、『ガマンをしてくれ』って意味な!? だ、大体冷静になってみろよ!! こ、こ、こんなとこで、そんなことできる訳ないだろ!!?」 冷静に断ったつもりだが、上条は完全に墓穴を掘っていた。「ここじゃダメってことは……二人っきりになれる場所ならいいってことだよね…?」「は、はひぃ!!? んぐっ!!!!!」 すると美琴は、再び上条の唇を奪う。 クチュクチュと舌が絡み合い、二人の唾液がツツゥーッと糸を引く。「…最後まで……当麻としたい……私の身体全部…………当麻のものにしてほしい!!!」「み……こと…………」 上条も、頭がポーっとして、何も考えられなくなっていた。 三度目の口付けをしようとしたその瞬間 白井の靴の底が、上条の顔にめり込んだ。 上条はそのままベンチを破壊し、3m後方まで吹っ飛んでいった。「痛ってええぇぇぇ!!! だが助かった!! あのままだったら、何か取り返しのつかないことするところだった!!!」 いや、助かってはいないぞ上条。「おほほほほぉぉぉぉぉい…類人猿さんよぉぉぉ……… よくもわたくしのお姉様に、好き勝手してくださりやがりましたわねぇ……… 脳みそに直接金属矢をぶっ刺してやるから覚悟しろやボケェェェェェ!!! ですの」「あれあれ!? 白井さんも性格変わってらっしゃる!? てか白井、美琴の様子がおかしいんだけど、何か知らないか!?」「ハッ! そうでしたの!」 死んだ御坂妹(ミサカ10031号)が空から手招きしているのを見て、本気でヤバイと思った上条は、 白井の気持ちの矛先を、美琴へと誘導させた。「もう何よ黒子!! いいところだったのに!!!」「口付け以上の何をするつもりでしたの!!? …いえ、それよりもこの五円玉を見てくださいまし! あなたは段々眠くな~る、あなたは段々眠くな~る……」「またそれ!? だから何度やっても効かスヤスヤ…」(催眠術!? どおりで右手が反応しない訳だ)「3・2・1で目覚めたら、あなたは元のお姉様に戻りますの。3・2・1・ハイッ!」「ないってば!! ってアレ? ここどこ?」 目を覚ました美琴は、辺りをキョロキョロ見回していく。「ここっていつもの公園よね。私、何でこんなとこにいるの?」「覚えて…ないのか…?」「ん? ア、アンタ!! なな、何でここにいんのよ!!」「ああ、うん。いつもの美琴だ……」 どこかちょっとだけ残念な気持ちになる上条であった。 いや、あの記憶がないのは、不幸中の幸いだろう。これで良かったのだ。 このまま美琴は、何も思い出さないほうが幸せ―――「あーでもちょっと待って。何か思い出せそう……」 上条と白井はビクゥッとして、慌ててフォローする「お、お姉様!? 無理に思い出さないほうが宜しいかと!! 人間、忌まわしい過去というのは忘却の彼方へと封印するものですし!!」「そ、そうだぞ美琴!! 俺とキスしたことなんか忘れたほうがいいって!!!」 あ…言っちゃった。 上条の一言に、その場が凍りついたのは言うまでもない。 「はえ!!? わ、私が、アア、アンタと、キキキキキシュ!!!? おも、思いらしてきた!! わらひ、キシュひて、しかも、アンタに、あんにゃこと、い、言って、 しょれに、ああ、あんにゃことも、しゃれて……………ふ…ふ……」「い、いえ! 気をしっかりお姉様!! 全ては夢!! 夢ですのよ!!! 類人猿も何余計なこと言いやがりますの!!?」「す、すまん! つい本当のことを……」「テメェもう喋んなああ!!!」 上条、白井。ケンカしている場合じゃなさそうだぞ。 バチィ!! バチチィ!! と、今まで聞いたことのないくらいの帯電音がしている。 これは…デカイのがくる。「ふにゃー」「「ぅおびゃびゃびゃびゃびゃびゃびゃ!!!!!!!」」 幻想殺しでも打ち消せないほどの電撃が二人を襲った。 もしかしたらこの時の美琴ならば、レベル6にも到達できたかもしれない…… その後白井は、本当に死ぬんじゃないかと思うくらいの電撃のフルコースを味わうことになり、 美琴は2週間、上条の顔をまともに見ることもできなかったという。 そしてさらに、「御坂様! お噂の殿方とはどこまで進展なされましたの!?」「何でも口付けは御坂様からだとか……」「キャー! 大胆ですわー!!」「さあさあ御坂さん!! 今日こそ白状してもらいますからね!!」「ネ、ネタはあがってますよ! 防犯カメラにもバッチリ映ってますから!!」「ラブラブなのー」 と、クラスメイトや友人から、地獄の質問攻めが待っていた。 そしてそれは上条も同じなようで、「おいおいカ~ミや~ん…ちゃんと言ってくれなきゃ分からんぜよ」「上条!! 貴様、さっさと吐け!! 一体何をした!!」「上条君。納得のいく説明がほしい。この。魔法のステッキが。最大出力になる前に」「死刑やあ!! この男は一遍死なな分からへんねん!!!」 と、こちらはやや暴力【いたいめ】にあいながらも、質問攻めにあっていた。 人の噂も七十五日だ。 あと二ヶ月と二週間、ガンバレ二人とも。「「あーもう!! 不幸ーーーだ(わ)ーーーーー!!!!!」」
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/2393.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/クリスマス狂想曲 12月24日 ――― 20 05 とある高校男子学生寮の一室 美琴「…ね、インデックスはいつ戻ってくるの?」チュッ 上条「ん…。そろそろ戻ってくるはず…」チュッ 美琴「…んぅ。じゃ、それまで、こうしてても、いいよね?」チュク 上条「…ああ」チュ 美琴「…はむ」チュゥ 上条「ん…」ピチャ 美琴「…」チュッ 上条「…」チュゥ ピンポーン 美琴「!!」ビクッ 上条「!!」ビクッ インデックス「とうまー。ただいまなんだよー」ドンドン 上条「…時間切れだ」 美琴「…そうね。残念だけど」 上条「冷蔵庫からケーキとジュース出してきてくれるか?」 美琴「りょーかい」 お互い立ち上がって小さく微笑み合い、軽く唇を合わせてから少年は玄関へ、少女は台所へと向かう。 上条「おかえり、インデックス」 インデックス「ただいま。とうま。む。美味しそうな匂いがするんだよ!」 上条「美琴がたくさんシチューを作ってくれたからな。明日の朝は豪勢だぞ」 インデックス(む。自然に名前で呼んでる)「…さすがみことなんだよ!」 美琴「おかえりなさい。インデックス。ちょうどケーキを食べようと思っていたところよ」 インデックス「いいタイミングで帰ってきたんだよ!」 美琴「ふふ。手を洗ってきなさい」 インデックス「わかったんだよ!」 洗面所へと走っていく銀髪の少女を見送ってから、テーブルの上にケーキとジュースを置いた茶髪の少女は、部屋の隅に置いておいた袋を見て眉を顰める。 美琴「良く考えたらインデックスって外出着は修道服しか持ってなかったっけ…」 上条「簡素な(激安)ワンピースなら持っているはずだぞ。まあ飛行機に乗るときくらいしか着ないけど、またどうして?」 美琴「修道服だと袖が邪魔でダウンジャケット着れないかなー?って思って。でも大きめなもの買ってきたし大丈夫かな?」 上条「そもそもアレの上から着ていいものなのか?それって?」 美琴「宗派によると思うけど、学舎の園のシスターは修道服の上から普通にマント羽織ったりしてるから大丈夫だと思う」 上条「そっか」 インデックス「わわっ。おっきいケーキなんだよ!」キラキラ 上条「ふふん。上条さん驕っちゃいましたよ」 インデックス「偉いんだよ、とうま!」 美琴「あ、インデックス、ちょろっとフード取って両手を水平に伸ばしてくれる?」 インデックス「なぜ私が磔刑の真似をしなくちゃいけないんだよ?」 美琴「ああ、違う違う」ゴソゴソ 不満そうな少女に向かって、美琴は慌てて紙袋から白いダウンジャケットを取り出して広げる。 美琴「これ、インデックスにと思って。合わせてみようかなってさ」 インデックス「あったかそうなんだよ!?えっと、フードを取って…。みこと、これでいい?」 ダウンジャケットを見て、銀髪の少女は言われたとおりにフードを外し、両手を伸ばした。 美琴「うん。修道服の袖を押さえて持ってねー。…よっ、と。うん。着れるみたいね」 インデックス「もこもこで暖かいんだよ!?」 美琴「よかったあ。着られて。これで外行く時も寒くないでしょ?」 インデックス「ありがとうなんだよ!みこと」 美琴「どういたしまして。脇にポケットがあるから、そこに手を入れるといいわよ」 インデックス「確かに暖かいけど、危ないかも」 美琴「確かにそうねー。じゃ、明日、手袋とか買いに行こうか?」 インデックス「いいの?」 美琴「女の子だもん。もっとお洒落しないとね」 もそもそとフードを被りながら、銀髪の少女は言う。 インデックス「でも、美琴はいつも同じ格好だよね?」 美琴「う、これは学校の制服で、アンタの修道服と同じようなものだから仕方ないのよ」 インデックス「そっか」 上条「はは。インデックス。なんかスノーマンみたいだな」 フードを被り終わった少女を見て、家主の少年がそう言った瞬間、何かが弾けるような音と共に、室内の空気が変わった。 上条「えーっと、インデックスさん?」ダラダラ インデックス「…どうやらケーキの前にとうまの頭を齧らないといけないみたいなんだよ」ガチガチ 上条「待ってくださいインデックスさん!み、美琴?インデックスを止めてくれ」 美琴「…当麻ゴメン。さすがに女の子を『スノーマン』って言っちゃうのは擁護できないわ」 上条「え?なんで?ちょっと落ち着いてくださいインデックスさん!?可愛いじゃんかスノーマン!」 インデックス(みことも普通にとうまのことを名前で呼んでいるんだよ)「…私は女の子なんだよ、とうま!」ガブッ 上条「ぎゃああああああああっ!!不幸だあああああっっ!!」 ――― インデックス「とうま。みこと。私に言うことあるんじゃないの?」モグモグ ケーキを頬張りながら銀髪の少女が言うと、同じようにケーキを食べていた少年と茶髪の少女の手が止まった。 上条「…インデックス」 美琴「…」 大きく息を吸い込み、少年は真っ直ぐに銀髪の少女を見た。 上条「俺、美琴と婚約した」 インデックス「え?婚約!?」 上条「あー、なんていうか、自分の気持ちに素直になったらさ、美琴を離したくないって思って」/// 美琴「当麻」(なにこれ、嬉しすぎる)/// インデックス「驚いたんだよ。みことがとうまのこと好きだっていうのはバレバレだったんだけど、とうまがみことのことをそんなに好きだったなんて思わなかったんだよ」 美琴「うぇ!?わたし、そんなにわかりやすかった!?」/// インデックス「暇さえあればとうまを見ていて、頬を染めていれば誰だってわかるんだよ」 美琴「そ、そんなことしてた?わたし!?」/// インデックス「うん」 上条「…」(俺はてっきり怒って睨んでるのかと思ってたんですけど!?あれ、照れてたのか?) インデックス「まったく、とうまは女の子の気持ちに疎いんだよ」 上条「疎いも何も、俺なんかに好意を寄せてくれる子なんているわけないだろうが!」 美琴「ここに居るわよ馬鹿!!」 上条「美琴…」ジーン 美琴「当麻…」 インデックス「いきなりふたりの世界に入るのはやめて欲しいんだよ」ハァ 上条「わ、悪い」/// 美琴「ご、ごめん」/// インデックス「…とうま」 銀髪の少女は皿の上にフォークを置き、真っ直ぐに少年を見る。 上条「どうした?インデックス」 インデックス「とうまは、伴侶としてみことを選んだんだね?」 上条「…そうだ」 美琴「…」(やっぱり、インデックスも当麻のこと…) インデックス「みことも、伴侶としてとうまを選んだんだね?」 美琴「…うん」 インデックス「おめでとう。とうま、みこと」ニコ 上条「あ、ああ」 美琴「ありがとう、インデックス」 銀髪の少女に返事をした後、少年はいつの間にか伏せていた顔を上げて銀髪の少女を見る。どことなく寂しそうな表情。 上条「あ、あのな、インデックス!俺と美琴は恋人になったけど、お前はこのままここに居ていいんだぞ!上手くいえないけど、その、お前は俺にとって家族みたいなもんで…」 インデックス「みことととうまが姦淫しないよう、シスターである私がしっかり見張ってあげるんだよ!」 上条「ちょっと待て!なにさらっと凄いこと言ってやがる」 美琴「か、か、か、かん、かん、かん………」アワワワワ/// 上条「美琴、落ち着け」ポン 美琴「ふにゃー」/// インデックス「…その様子なら大丈夫そうなんだよ。…それで、ね、とうま。…本当にいいの?」 上条「何がだ?」 インデックス「私、ここにいても、いいの?」 真っ直ぐに少年を見つめて、銀髪の少女は言った。 美琴(インデックス、アンタ…) 上条「お前なにを言ってるんだ?」 インデックス「家族でも恋人でもない私が、ここにいてもいいの?」 上条「お前…。何でそんなこと言うんだよ」 インデックス「だって、私、他人だし」ショボン 上条「なっ、お前、いまさら何言ってやがる」 少年は銀髪の少女の頭に手を置くと、そのままぐりぐりと撫でる。 インデックス「痛いんだよ、とうま」 上条「インデックス。俺は『御坂美琴と彼女の周りの世界を守る』って約束してるんだよ。そして、その世界にはもちろんお前も入っている」 インデックス「…とうま」 上条「美琴。俺はインデックスのことを家族と同じように考えてる。だから、こいつがこのままここに居ることを許してやってほしい」 美琴「許すも何も、アンタが家族だって言うんならわたしがどうこういうことじゃないでしょ」(わたしと私の周りの世界を守るって…)/// 上条「スマン」 インデックス「…みこと」 美琴「それに、と、と、と、友達を追い出すような真似、わたしにはできないわよ」/// インデックス「ともだち?」 美琴「わ、わたしは、インデックスとは友達だって思ってるけど…駄目、かな?」 インデックス「ふ、ふえええええんっっ!!」 上条「だああああっ!泣くなインデックス!」 美琴「わっ、わっ、何で泣くの!?そんなに嫌だった!?」 インデックス「う、嬉しいんだよ。とうまが居ても良いって言ってくれて、みことがともだちって言ってくれて嬉しいんだよ!ふええええんっ!!」 上条「インデックス…」ナデナデ 美琴「…」 茶髪の少女は銀髪の少女の後ろに回り、背中から抱きしめた。 インデックス「みこと?」 美琴「…ごめんね」ボソ インデックス「…いいんだよ」ボソ 美琴「ありがとう」ボソ 少年に聞こえないように言葉を交わすと、少女達は小さく微笑みあった。 上条「む。なんかハブられてる気がする」ムスッ 美琴「はいそこ、女の子に嫉妬しない」 インデックス「鈍感の癖に嫉妬深いんだよ。とうま」 美琴・インデックス「「ねーっ」」 上条「…」(なんか突っ込んだらマズイ気がするからスルーしておこう) インデックス「はー。安心したら甘いものが食べたくなったんだよ。それ、食べていい?」 そう言うと銀髪の少女は半分以上残っているホールケーキを指す。 上条「おう、いいぞ」 インデックス「いっただきまーす」 美琴「いきなりホールごといっちゃうの!?アンタらしいというかなんというか、凄いわね」 インデックス「もぐもぐ。美味しいんだよ、むぐ」 上条「まあ、俺達も食べたからいいだろ」 美琴「まあ、そうね。インデックス、明日は何時に迎えに来ればいい?」 インデックス「朝ご飯にシチューを食べるから9時ごろで良いんだよ」 上条「いや待て、学校あるだろうが」 美琴「え?常盤台は昨日から冬休みだけど?当麻、授業あるの?」 上条「なんですと!?俺の高校は火曜日まで登校日だぞ」 美琴「そうなんだ。ご愁傷様。わたしは休みだからインデックスとお買い物」 上条「くっ、なんか悔しいな」 美琴「まーまー。明日もご飯作ってあげるから、がんばって勉強してきなさい」 上条「それは嬉しいな。サンキュ。美琴」 インデックス「みことのご飯は美味しいから大歓迎なんだよ!」 美琴「ふふ。ありがと。さて、じゃあそろそろ帰らないと」 上条「送ってく。インデックス、留守番頼むぞ」 インデックス「任せてなんだよ!」 美琴「じゃあ、インデックス、また明日ね」 インデックス「うん。またね。みこと」 ――― 20 45 とある公園 自動販売機前 自動販売機の陰で抱きしめあい、やや長めに恋人のキスをした後、少女が名残惜しそうに背を向ける。 そんな少女の右手を掴むと、少年は言った。 上条「やっぱり、寮まで送る。ってか送りたい」 美琴「うん。ありがと」ギュッ 上条「どういたしまして」ギュッ 指を絡ませて手を繋ぎながら、少女の寮へ向かって歩き出す。 美琴「その、いっぱい、しちゃったね」/// 上条「そ、そうだな。でも、その言い方はちょっと問題がありますから注意してください美琴センセー」/// 美琴「あ、う、そ、そうね。ゴメン」/// 上条「いや、謝らなくてもいいんだけど。気をつけてくれればな」 美琴「うん。その、さ、当麻は、その、したい?キスじゃなくって、さっき言ってた最終段階ってやつ」/// 上条「気をつけろって言った矢先にそういうこと聞くのかよお前は!?」/// 美琴「ゴ、ゴメン。でも、その、したいなら、その、女の子には準備があるから、その、ね?」/// 上条「したくないって言えば嘘になるけど、美琴はまだ中学生だろ?さすがにそういうのはまだできねえかなって」 美琴「あー、その、ね。一応さ、学校から処方箋出てる、から…」/// 上条「へ?処方箋って、薬?お前、どこか身体の具合悪いのかよ!?」 美琴「あー、そうじゃなくってさ、その、…ピルって言えば、わかる?」/// 上条「ピ、ピ、ピルゥ!?な、何考えてるんだ常盤台は!?」/// 美琴「えーっと、家庭の事情を勘案してってやつよ。わたしの場合は許婚がいるからってことで、さ」 上条「え?俺達って常盤台公認!?」 美琴「うん。ママが連絡してくれたから」 上条「そっか。俺達、親公認だしな」 美琴「うん。その、さ。家同士の取り決めで許婚になる子とかいるから。処方箋もそういう子を守るためのものだと思うんだけど」 上条「あー。そういうのって本当にあるんだな。お嬢様も大変だよな。それ考えるとさ、俺達って恵まれてるな」 美琴「…うん」 上条「好き合って許婚になれて、上条さんは幸せ者ですよ」 美琴「わ、わたしも、幸せ者だもん」 そう言って腕にしがみつく少女の頬を、少年は優しく撫でた。 美琴「ふわっ!?」/// 上条「あーもー、可愛いな美琴は」ナデナデ 美琴「あ、ん」/// 上条「…その、女の子の準備ってやつはさ、美琴に任せる。俺も、男の準備はしておくから」/// 美琴「な、な、なに言っちゃってるのアンタ!?」/// 上条「馬鹿お前、いつまでも我慢できるわけねえだろうが!」/// そう言うと少年は少女を抱きしめる。 美琴「!?」/// 上条「…美琴が好きって気持ちが俺の中でどんどん大きくなってんだよ。美琴のすべてを知りたいし、俺のものにしたいって」 美琴「…わたしだって当麻のこと知りたいし、わたしのものにしたいわよ」 上条「お互い素直に言いたいことが言えると嬉しいな」 美琴「そうね」 上条「じゃあさ、キスしていいか?」 美琴「そんなの、聞かなくてもわかるでしょ?」 ふたりは小さく笑い合って、唇を重ねた。お互いを存分に味わってから唇を離すと再び歩き始める。 美琴「えーっと、素直に言うのが嬉しいって言うから正直に言うけど、その、わたしのアレって月の中頃くらいだから、女の子の準備終わるのって早くても来月の終わりくらいだから…」/// 上条「そ、そうか」/// 美琴「うん」/// 上条「いやいやいや!なんですること前提になってるんでしょうか!?美琴センセー」/// 美琴「だって、我慢できないんでしょ?」 上条「いやいやいや!美琴センセーが結婚できる歳になるまでは上条さんも我慢しますよ?」 美琴「その、…わたしがしたいって言ったら?」/// 上条「………我慢できないかも」/// 美琴「当麻のえっち」/// 上条「自分から誘っておいてそれはないんじゃないでしょうか?美琴センセー!?」 美琴「さ、誘ってなんて…」/// 上条「ほう。『わたしがしたいって言ったら?』なんて言ったのはどちらさまでしたっけ?」 美琴「うぐっ。…と、当麻としかしたくないんだからね」/// 上条「俺だって美琴としかしたくないからな」/// 美琴「じゃあ、いいや」 上条「だな」 美琴「えへへ」 上条「ははは」 笑い合いながら二人は寮の前で立ち止まる。 美琴「…着いちゃった」 上条「ああ。門限ぎりぎりってところか?」 美琴「うん。あとちょっと」 上条「そっか。じゃ、部屋に戻ったらメールするから」 少年を見つめてから、少女はそっと瞼を閉じる。 美琴「…おやすみのキス、して?」 上条「いいのか?寮の前だぞ?」 美琴「許婚だから隠す必要ない…んむっ!?」 話し終わる前に少女の唇が少年の唇で塞がれ、口内に舌が差し込まれた。 美琴「ん…ふっ」(あ、吸われてる、…わたしも)チュク 上条「…んぅ」(応えてくれた。美琴…)チュク 恋人のキスを充分に堪能してから唇を離す。ふたりの間に透明な糸が伸び、切れた。 美琴「おやすみ。当麻」 上条「おやすみ。美琴」 寮監「おかえり。御坂」 美琴「ただいま戻りました。寮監…様!?」 寮監「ずいぶん情熱的な接吻だったな?御坂」 美琴「ふ……」(み、見られた!?見られちゃった!?)/// 寮監「ふ?」 上条「!!」(マズイ!) 美琴「ふにゃああああああああああああっっ!!」ビリビリビリ 上条「不幸だああああああああああああっっ!!」 ――― 21:05 常盤台中学学生寮 寮監室 寮監「砂糖は?」 上条「あ、結構です」 寮監「どうぞ」 上条「いただきます」 一口飲んでソーサーにティーカップを置き、視線を自分の前に座っている女性から、自分の肩に頭をもたれさせている茶髪の少女に移して、上条当麻は頭を掻いた。 上条(美琴が気を失っちまったから部屋に連れて行けばいいと思ったんだが、なんでここにいるんだ?しかもお茶なんか出されてるし) 寮監「君が、御坂の許婚か?」 上条「はい」 寮監「まあそうでないと困るのだが。だが、許婚とはいえ、寮の前での接吻はできれば自重してもらいたかった」 上条「う、すみません」(そういえばこの人に見られたんだっけ)/// 寮監「御坂もわかっているはずなのだがな。…まったく、恋は盲目とは良く言ったものだ」 上条「…」 寮監「特に今日はクリスマスイブだからな、寮生達もそういうものには敏感なのだ。困ったことに」 上条「…」 寮監「私が門前に出たことで多少は防げたと思うが、それでも効果はないだろうな」 上条「…それってどういう意味?」 上条が尋ねると、寮監は立ち上がって扉の前に置かれている衝立の向こう側へと歩いて行く。 寮監「君はそこから動かないように。あと、御坂が気付いたら黙らせておいてくれ」 上条「え?」 寮監「まあ、すぐにわかる」 扉を開ける音がすると同時に、廊下の向こう側から複数の少女の声が聞こえてきた。 寮生A「寮監様、御坂様は!?」 寮生B「逢引なさっていたとか」 寮生C「門前でせ、接吻をしていたとのことですが…」 寮生D「御坂様が殿方と!?」 寮生E「御坂様が!?」 寮生F「寮監様!本当ですか!?」 寮監「お前達、静かにしろ。御坂には今厳重注意をしているところだ。今回の件については御坂家にも注意をする」 寮生A「御坂様の家にも注意をするということは…婚約者ですか?」 寮生B~F「御坂様に婚約者が!?」 ひときわ大きい声が聞こえてきたところで上条にもたれていた少女が小さく身動ぎした。 美琴「…ん」 上条「…美琴、目、覚めたか?」ヒソヒソ 美琴「当麻?…ここ、どこ?」パチパチ 少年は人差し指を自分の唇に当てて静かにするよう合図をしてから言う。 上条「ここは、お前の寮の寮監さんの部屋で、寮監さんが寮の人に説明をしているところだ。静かにしてろ」ヒソヒソ 美琴「説明?」ヒソヒソ 上条「おやすみのキス、何人かに見られたかもしれない」ヒソヒソ 美琴「うぇ…むぐっ!!」 茶髪の少女が叫びそうになるのを察知して、少年は慌てて右手で少女の口を塞ぐ。 上条「静かにしてろって言っただろ」ヒソヒソ 美琴「~っ!!」ジタバタ 上条「美琴。今から手を離すけど、声出すなよ」ヒソヒソ 暴れる少女の耳元でそう囁くと、少年は少女の顔を覗き込む。目が合うと、少女は小さく頷いた。 美琴「…苦しかった」ヒソヒソ 上条「スマン」ヒソヒソ 美琴「謝るだけ?」ヒソヒソ 上条「…ちょっとだけだぞ?」ヒソヒソ チュッ 美琴「…ん」チュッ 寮監「お前たち、正直に言え。誰が何を見た」 寮生A「寮監様、たまたまですが私、二階の廊下の窓から御坂様が門の前で殿方と接吻をしているのを見てしまいました」 寮生B~F「!!」 寮監「そうか。他にはいないのだな?」 寮生A~F「…」 寮監「全く、御坂にも困ったものだ。まあ、年に一度のことだし、お前たちも大目にみてやってくれ」 寮生A「それって、あの殿方は御坂様の婚約者、ということでしょうか?」 寮監「否定はしない。詳しくは御坂に聞け」 寮生B・D「御坂様に婚約者が!」 寮生C・F「御坂様に彼氏が!」 寮生A・E「御坂様に恋人が!」 寮監「さあ、解散だ。解散」 寮生A~F「失礼します」 寮生達の挨拶を背中で受け、寮監は寮監室へ入ると扉を閉めた。 寮監「まあ、あんな感じだ。明日には寮内に広がっているだろう…」 美琴「…ん」チュゥ 上条「…んぅ」チュッ 寮監「お前達…」 美琴「ふにゃっ!!」ビクッ 上条「あ、その、これは…」ビクッ 寮監「御坂が目覚めて大声を上げそうになったから唇で塞いだとかそういうことか?」 上条「は、はい、すみません!!」 美琴「あ、あ、あ…」(見られた、また寮監に見られちゃった)ピリ…パチッ 上条「うわわわわっ、美琴、落ち着け!」 少年が少女の頭に右手を置く。それと同時に少女から漏れ出していた電気が消えた。 寮監「!」(御坂の電気を止めた、だと?) 美琴「ど、ど、ど、どうしよう、どうしよう当麻!?また寮監に見られちゃったよ」アワアワ 上条「お前は悪くない、悪いのは俺だ。だから落ち着け、な?」ナデナデ 美琴「当麻ぁ…」グスッ 上条「よしよし」(やべ、可愛い)ナデナデ 寮監「君は無能力者と御坂から聞いているが、今、御坂の電気を消しているのは君の力ではないのか?」 上条「あ、いや、これは生まれつきというかなんというか、俺の右手、能力消しちゃうんですよ」 寮監「ほう。それは興味深いな。だが超能力が消せるなら無能力者とはいえないと思うのだが」 上条「でも、身体検査にひっかからないんですよね」 寮監「ふむ。それは第七位と同じ原石と呼ばれる力なのではないか?」 上条「よくわからないです。ははは」 美琴「…」(統括理事会は当麻の力を”幻想殺し”として、管理しているけれど、無能力者扱いなのよね…) 寮監「第三位より強い無能力者か…。まあそれもいいかもしれないな」 上条「いやいやいや、そんなことありませんから!」 寮監「御坂が君に身を委ねている時点で、君の方が御坂より強いと思うが?」 美琴「え?」/// 優しい眼差しで茶髪の少女を見ると、寮監はほうっと溜息をつく。 寮監「そのような御坂も、新鮮だな。実に初々しい」 美琴「は、はは…」(また、寮監が壊れた) 寮監「ああ君、そういえばまだ名前を聞いていなかったな。聞かせてもらえるか?」 上条「あ、はい。上条当麻と申します」 寮監「ふむ。すると御坂はゆくゆくは上条美琴になるのだな」 美琴「え?あ、はい…」/// 上条「改めて言われると何か恥ずかしいな。いや、嬉しいんだけどさ」/// 美琴「えへへ」/// 寮監「上条君、御坂。今日のことは不問とするが、今後このようなことが無いよう寮の近辺及び内部では節度を持って行動してもらいたい」 上条・美琴「はい」 寮監「先ほどは夢中で聞いていなかったと思うが、御坂に婚約者がいるということが寮全体に広がるのは時間の問題だと思われる」 美琴「…まあ、仕方ないです。んー。そうすると明日には学校、いや、学舎の園ときて、第七学区、学園都市全体へと伝播するでしょうね。こういうことってあっという間に広がるから」 上条「そういうもの!?」 美琴「ま、ね。たぶんアンタの学校でも話題になるわよ。『超電磁砲に婚約者!』ってね」 寮監「女というものはそういう話に弱いからな」 美琴「まあ、アンタの名前までは出ないわよ」 上条「…俺は別に名前が出ても構わないけどな」 美琴「え?」 上条「言ったろ?独占欲強いって。別の奴とお前が噂になるくらいなら、俺の名前出してもらった方がいい」 美琴「わたしも、当麻以外の人と噂になるのは嫌」 少年と少女は見つめあう。 寮監「…ふむ。じゃあ御坂、いっそ寮内放送で発表するか?」 美琴「え?」 寮監「お前自身が発表すれば変な噂をたてられずに済むぞ」ニヤリ 茶髪の少女は少年を見て、それから静かに口を開いた。 美琴「そうします」 ――― 21:30 常盤台中学学生寮208号室 黒子(門限も過ぎていますのに、お姉様は一体どこに…。はっ、まさかまだ上条さんと一緒にいるのでは)ワナワナ ~~~ 美琴「当麻…。わたし今日帰りたくないの」 上条「美琴…」 美琴「…ねえ?当麻。ホワイトクリスマスにしてくれる?」 上条「俺、雪は降らせられないぞ」 美琴「もう、わかってるくせに」 上条「なにがだよ」 美琴「ナニよ」 上条「俺色に染め上げてやるぜ~」ガバッ 美琴「ああーん。優しくしてーん」 ~~~ 黒子「お姉様がそんな破廉恥なことするわけないですのおおおおおおっっ!!」ギャアアアアア ピンポンパンポーン ツインテールの少女が妄想に悶えていると、室内のスピーカーから軽快なチャイムが流れてきた。寮内放送の合図である。 黒子(寮内放送?こんな時間に?) 寮監『夜分遅くに失礼する。これより、寮生二年、御坂美琴から全寮生に向けて報告がある』 黒子(お姉様!?) 美琴『二年の御坂美琴です。夜分遅くに申し訳ありません。私事で恐縮ですが、わたし、御坂美琴は先日とある高校一年の上条当麻氏と婚約いたしましたことをご報告申し上げます。なお、この件に関しては常盤台中学に報告済です。以上、ご静聴ありがとうございました』 ピンポンパンポーン 黒子「……………は?」 ぽかんと口を開け、主のいないベッドを見つめる。 黒子(なんですの?お姉様と上条さんが婚約…??) まるで何かに殴られたかのような眩暈にも似た感覚が少女を襲った。 婚約。それすなわち男女が将来における結婚の約束をすること。 黒子「婚約ぅぅぅぅっっ!?」 そんな少女の叫びは、ほぼ同時に寮内から湧き上がった嬌声によって掻き消されるのであった。 クリスマス狂想曲 12月24日 了 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/クリスマス狂想曲
https://w.atwiki.jp/seisoku-index/pages/531.html
あれから数日、美琴の怪我は順調に回復した。 美琴の治療の間と言う期限付きだが、インデックスは冥土返しの好意で御坂妹と同室での寝泊りを許可された。 患者に必要なことは何でもする、という事で深く事情を探らずにだ。 美琴「平和すぎて拍子抜けしちゃうわ……」 しいて事件を上げれば、美琴の入院を知った白井が半狂乱で突撃して来たのを鎮圧したり。 インデックスと4人の妹達が共同戦線を張って(興味を抱く理由は違うが)とある少年との思い出を聞き出そうとしたり。 仲良く猫談義に花を咲かせるインデックスと御坂妹に軽く嫉妬したり。 後はまあ、インデックスが風邪を引いたぐらいだろうか。 その程度の事件とも言えない事件しか無い平和な日常だった。 そう、平和『だった』 御坂妹「お姉様、よろしいでしょうか」 美琴「ああ、アンタ。インデックスの風邪の調子はどう?」 御坂妹「その事です、インデックスさんが――」 美琴「――――――え?」 束の間の日常は終わりを告げた。 冥土返し「検査の結果は何も異常なし、としか言えないね?」 苦しそうな寝息を立てるインデックスを前に淡々と、だが力及ばない事に歯噛みするように告げる。 美琴「どういう、事ですか?」 冥土返し「そのままの意味だね? 身体的には全く異常は認められないということだね?」 彼、冥土返しは優秀な医師だ。科学の最先端である学園都市に置いてなお、最高の医師と言っても過言ではない。 その彼をもってしてもインデックスの症状は原因不明。 それは美琴に確証に近い推論を導き出させる。 インデックスは魔術に蝕まれている。 美琴には魔術は使えない。知識もない。 なら魔術を使える人間を、魔術師を引きずってでも連れてくるしか無い。 どれぐらい猶予があるのか分からないのだから、形振り構っている場合ではないのだ。 美琴(ごめん、すぐ戻るから待ってて) インデックスを一瞥し、藁にもすがる気持ちで美琴は夜の街へと駆け出した。 病院を飛び出してしばらくすると、美琴は違和感を感じ足を止めた。 学園都市は人口の大半が学生なので、夜になれば街に人通りは殆どない。 だからといって人の気配が全くしないと言うのはありえない。 美琴「……これは」 ???「ステイルが人払いの刻印を刻んでるだけですよ」 声を聞いた直後、今まで誰も居なかったはずの場所に一人の女が立っていた。 その女はTシャツに大胆に切ったジーンズ、そして腰から日本刀をぶら下げている。 人ごみであっても絶対に見逃すはずはないであろう格好で。 だというのに、本当に気づかないうちに女はそこにいた。 神裂「神裂火織、と申します。……出来ればもう一つの名は語りたくないのですが」 美琴「……ちょうど探そうとしてたところよ。そっちから来てくれて手間が省けたわ」 神裂「それはこちらとしても助かりました。場所が場所なのでこちらから訪問するのを自粛していたので」 神裂「まあそろそろ意識を失う頃でしょうから、無理にでも伺おうかと思っていたところです」 ぶつり、と美琴の中で何かが切れる音がした。 美琴「やっぱり、アンタ達が……!!」 爆ぜるように美琴から雷が溢れ出す。 神裂「話し合いに来たつもりだったのですが……」 触れるだけで消し炭になりそうな稲妻を纏う美琴を前にして、臆すること無く神裂は続ける。 神裂「仕方ありません、力尽くといきましょう――『七閃』」 勝負は一分と掛からずについた。 神裂から放たれた抜刀による七つの斬撃。 美琴はそれをワイヤーによる攻撃と看破し、逆にワイヤーを通し電撃によるダメージを与えた。 そこまでは良かった。 神裂「ぐっ! ……なるほど、手加減している余裕はなさそうですね!」 言い終えると同時、美琴は相対していたはずの神裂を見失った。 神裂からは一瞬たりとも目を離してはいないにもかかわらずだ。 美琴(空間移動!?) そう思えるほどの速度で神裂は美琴の背後に移動していた。 唯一、美琴の持つ電磁波のレーダーだけがかろうじて、神裂が背後に移動したことを捉えた。が、 神裂「私の動きに反応するとは流石です。ですが」 美琴の首筋に冷たいものが突きつけられる。 神裂「勝負あり、ですね」 美琴(くやしい……) 努力を重ね手に入れた超能力者としての力。 いくつかの修羅場もくぐり抜けてきた経験。 だが、それも聖人である神裂火織には通用しなかった。 美琴(私は、私は必ず勝たなきゃいけないのに……!) 神裂「これ以上抵抗しないというのであれば、私達は貴方に危害を加えるつもりはありません」 神裂「降参、していただけますね?」 これ以上の抵抗は無意味。そんな事は誰が見ても明らかだ。 美琴「そんな事、出来るわけ無いじゃない!!」 それでも譲れないものがある。 神裂「……何故です? 彼女とは会って数日の間柄でしょう。あなたがそこまでする理由はないはずです」 美琴「時間なんて関係ない! たった数日だって、もうあの子は私の友達よ! 友達を見捨てるなんて私には死んでもできない!!」 神裂「…………友達……」 ぽつり、と美琴には聞こえないほどの声で神裂は呟く。 やや時間を置いて、神裂は刀を鞘に収めた。 美琴「…………?」 神裂「少し、お話をしましょうか…………」 態度を一変させた神裂を不思議に思いつつも、警戒しながら美琴は振り向く。 神裂「私の所属する組織の名前は、あの子と同じ、イギリス教会の中にある――必要悪の教会」 そこにいたのは魔術師・神裂火織ではなく、 神裂「彼女は、私の同僚にして――――大切な親友、なんですよ」 ただ、疲れた笑みを浮かべるだけの一人の女性だった。 ステイル「どういうつもりだ神裂!」 神裂「……ステイルですか。どうもこうも、あの子の境遇をお話しするだけです」 ステイル「だから何故だと聞いている!!」 神裂「彼女、御坂さんはあの子を友達だと。友達のために命を掛けると言ったのです」 神裂「だったら彼女にも聞く権利はある、違いますか?」 ステイル「……ちっ」 美琴「……どういう、ことよ?」 意味がわからなかった。 同僚? 親友? インデックスはそんな事は一言も言わなかった。 第一、あの魔術師からインデックスは逃げようとしてたではないか。 混乱する美琴をよそに神裂は話を続ける。 神裂「完全記憶能力と言うのをご存知ですか?」 美琴「……ええ、それのせいであの子が10万3000冊を覚えさせられるハメになったって所までね」 神裂「そして10万3000冊のせいで脳の容量の85%使われている。残った15%を使って、彼女はなんとか生きているのです」 美琴「……は?」 美琴は耳を疑った。 目の前のこの人は何を言ってるのだろう、と。 神裂「そんな残った15%も、完全記憶能力者である彼女は1年間で使い潰してしまうのです」 神裂「だから私達は、1年周期であの子の記憶を術式で無理やり消してきたんです」 神裂「私達だって、そんな事はしたくなかった! でもそうしなければ脳がパンクして、あの子が、死んでしまうから……」 悲痛な面持ちで消え入るように呟く。 美琴はそれがひどく滑稽に見えて、それゆえ悲しかった。 美琴「……アンタ達は、それがおかしいと思わなかったの?」 神裂「……どういう事です?」 無知と言う罪を持つ神裂達に、美琴はこの上なく残酷な現実を突きつけた。 美琴「人間は記憶のし過ぎで死ぬことはありえないわ」 神裂「……え?」 ステイル「なん……だと?」 美琴「だって、あんたらの理屈で言うと完全記憶能力者は十年も生きられないのよ?」 美琴「完全記憶能力者がレアな存在だからって、世界中探せば何人も居るのよ。その人達はわざわざ記憶を消して生き続けてるの?」 神裂「ですが、しかし……」 認められない。いや、認めたくない。 それを認めるということは、彼女たちに取って耐え難い現実を意味する。 それは美琴も分かっている。 美琴「そもそも人間の脳って言うのは140年分の記憶を蓄えて置けるのよ」 分かっていて、続ける。 美琴「第一、魔導書の『知識』と今まで生きてきた『経験』は記憶をする場所が別なの。だから」 一呼吸置き、二人にとって死刑宣告にも等しいと分かっていてなお、美琴は最後の一言を告げた。 インデックスの記憶を消す必要は無かったのよ、と。 神裂「そん、な……」 ステイル「馬鹿な……。じゃあ、僕達のしてきた事は……」 記憶を消すと言う行為は、ある意味ではその人物を殺すとも言える。 そう、彼らは一年毎にインデックスを『殺した』のだ。 必要なことだと自らに言い聞かせ、感情を殺し、行ってきたのだろう。 そして今夜、今までの行為が誤っていたことを知ってしまった。 計り知れない程の後悔、失意、絶望が彼らを襲っただろう。 真実知らせるためとはいえ、美琴はやりきれない気持ちでいっぱいだった。 だが、落ち込んでいる暇はない。 まだ希望はある。 美琴「絶望するにはまだ早いんじゃないの?」 神裂「……?」 美琴「記憶を消さなくてもいいって分かったんでしょ。なら後は、あの子を縛っているものから解放するだけじゃない」 神裂「っ!!」 スイテル「君に、言われるまでもない!!」 先程まで死人のようだった二人の目に闘志が灯るのを確認し、美琴は満足そうに頷いた。 美琴「猶予はいつまでなの?」 神裂「記憶消去の儀式を行うはずだった時間、タイムリミットは今夜午前0時15分でした」 美琴「こ、今夜!? な、なんでもっと早く来なかったのよ!」 神裂「私達も病院を戦場にする可能性のある行動は避けたかったのです。だから貴方が一人で行動するのを待っていたのですよ」 ステイル「まさか期限ギリギリまで引きこもられるとはこっちも予想していなかったからね」 美琴「し、しょうがないでしょ! だいたい、アンタと戦わなければ私は入院なんてしなくて済んだんだから!」 神裂「確かにそれはこちらの落ち度ですが、今はそんな事言ってる場合ではありません」 神裂「というわけで、二人ともちょっと失礼します」 そう言うと神裂は右肩にステイルを、左脇に美琴を抱えた。 美琴「え、ちょ」 ステイル「な、何をするんだ神裂!」 神裂「舌を噛むので黙っててください。行きます!」 二人を抱えた神裂は、車両であれば一発免停となる速度で走りだす。 それに晒された被害者二人は声にならない悲鳴をあげた。 病室についた神裂とステイルは苦しそうにうなされているインデックスを見て顔をしかませる。 それも一瞬のことで二人はすぐにインデックスを苦しめている原因の調査にとりかかる。 程なく、原因は判明した。 ステイル「…………神裂、この子の喉の奥を見てくれ」 神裂「……これは…………」 ステイル「ああ、僕達が騙されていた時点で予想はしていたが」 神裂「……最大主教、貴方と言う人は…………!」ギリッ 美琴「どうなの? 治せるの?」 ステイル「……可能か不可能かで言えば、可能だ。だがこの子を縛っているのは最大主教が取り付けた霊装だ。僕程度では解除にどれほど時間がかかるか……」 ステイルの言葉から判断するに、少なくとも今夜のタイムリミットには間に合わないのだろう。 神裂からの話を聞いた時点で美琴もこれには薄々感づいていた。 二人を騙していた『上の連中』が、簡単に解除できるような縛りをインデックスに施すわけはないのだから。 だから、美琴は次善の策として一つの案を考えていた。 美琴「……一つ、方法があるわ。根本的な解決にはならないけど、少なくともこの子を記憶を引き継ぐことは出来る」 神裂「そ、そんな事が出来るのですか!」 美琴「ええ、その為には協力して欲しい人間が居るんだけど。事情を話しても構わないわよね?」 ステイル「………………好きにしたまえ。僕だって物事の優先順位ぐらいはわきまえている。それで、誰の力を借りるんだ?」 ステイルの言葉に頷くと、美琴は先日インデックスを追跡するときに使ったチョーカー型の機械 ―ミサカネットワーク接続端末― を取り出してこう言った。 美琴「私の妹達の力を借りるのよ」 御坂妹「――なるほど、大体の事情はわかりました。しかし魔術とは……とミサカは超展開に少々戸惑っています」 美琴「ごめん、出来ることならアンタ達は巻き込みたくなったんだけど……」 御坂妹「水臭いことを。この方を助けるために必要なんでしょう? とミサカむしろ頼っていただけた事を若干嬉しく思います」 御坂妹「まだイヌとスフィンクスのどちらが可愛いか、決着も付いていないことですし」 ほんの少しだけ、見落としてしまいそうな僅かな変化だが、御坂妹が笑った。未だ感情を上手く表現できないにもかかわらず。 ステイル「一体どんな方法を取るんだ?」 美琴「記憶のバックアップを取るのよ」 美琴の案はこうだ。 まず美琴がインデックスと電気的に回線を繋ぎ、記憶を読み取る。 美琴一人ではインデックスの記憶の保管は困難なので、ミサカネットワークへと順次アップロードを行う。 その後ステイル達がインデックスの記憶消去儀式を行い、ミサカネットワークから記憶をダウンロードする。 インデックスの記憶が一万人弱にばら蒔かれてしまう事等の倫理的な事を除けば問題はない、そう美琴は考えた。 スイテル「……駄目だな」 美琴「そ、そりゃあ他人に記憶を勝手に見られるのは嫌だろうけどさ。実際のところデータとしてやり取りするだけだから私達はほとんど認識出来ないわよ?」 ステイル「違う、そういう事じゃないんだ」 ステイルは大きくため息を頭を振った。 ステイル「そんな事したら君は死ぬぞ?」 美琴「どう言う事よ……」 ステイル「君の話を聞いた感じだと、記憶の取捨選択は出来ずにまるごと吸い上げるんだろう?」 美琴「そうだけど……」 ステイル「ならば魔導書の原典も読み取ってしまうはずだ。いいか、魔導書の原典を目にするという事は僕達魔術師ですら非常に危険なことなんだ」 ステイル「それを何の防御策も持たない君達が一瞬でも見れば良くて廃人、悪ければ魂まで侵され、死ぬ」 するりと掴んでいたはずの何かが逃げていく錯覚を美琴は感じた。 美琴「そん……な……」 短い期間だが、美琴はインデックスの色々な面をみてきた。 最初の印象は白い腹ペコ怪生物。 次に抱いたのは魔術を語る痛い子。 そして今は、ちょっと寂しがり屋な優しい子。 出会ってからの思い出が、絆を失う痛みが、美琴に絶望という二文字を思い浮かべさせた。 禁書「あ――――――――、か。ふ」 ぐったりとしたインデックスの口から声が漏れ、全員の視線が彼女へと向く。 美琴「インデックス!」 禁書「……みこ、と?」 美琴「大丈夫? 苦しくない?」 禁書「うん、平気なんだよ。……ごめんね、風邪なんか引いちゃって」 インデックスは今も激しい頭痛に苛まれているはずだ。 なのに心配させまいと、必死で笑顔を作る様子に美琴は胸が締め付けられる。 美琴「そんなの、気にしないでいいわよ」 禁書「……ねぇみこと」 美琴「うん?」 禁書「風邪が治ったら、私黒蜜堂って所に行ってみたいんだよ。クールビューティーが、すごい美味しかったって言ってたんだよ」 美琴「……うん、治ったら連れてってあげる」 禁書「みことの行ってる学校も見てみたいな。学舎の園って所」 美琴「うん。ほんとは部外者は入れないんだけど、特別よ」 禁書「約束、なんだよ」 美琴「約束するわ。だから、今は風邪を治さないとね?」 禁書「うん、おやすみなさい……みこと」 最後まで笑顔を絶やさずインデックスは意識を落とした。 美琴「おやすみ、インデックス………………絶対、絶対に約束は守るわ……」 まだ諦めるには早い。 絶望しかけた美琴の目に再び力が戻った。 考えろ、ギリギリまで考え続けろ。 目の前の大事な友人の為に他に自分ができることはないのか。 今一度、自分は何が出来るのかを美琴は整理する。 魔術そのものをどうにかすることは出来ない。 魔導書のせいで記憶の読み取りも出来ない。 ならばもっと根源的なな、脳内の『電気信号そのもの』を電子データとして読み取ることは出来ないか? 電撃使いの能力の本質は『電子の制御及び観測』だ。理論上は可能だ。 だが問題もある。 美琴(私じゃ演算能力が足りない……) 美琴では人間一人分の脳内の電気信号を全て観測・制御することは出来ない。 自分だけの現実の問題ではなく、単純な演算力の不足。 力がない事、美琴はそれに大きな歯がゆさを感じる。 きっと幻想御手に手を出した人達は今の自分と同じ気持だったのだろう。 美琴(…………ん? 幻想、御手?) 瞬間、美琴の中で何かが繋がった。 幻想御手とは脳波のネットワークを構築し、使用者の演算能力を強化するものである。 作成者の本来の目的の効果ではないが、問題はそこではない。 そもそも、幻想御手は何を参考にして作られたものか? 美琴(そうよ、MNW!! あれの並列演算ネットワークとしての力を借りれば!) 出来るかもしれない。 御坂妹「確かに……MNW、ミサカ達の力でお姉様の力を底上げする事は可能です。ですが、とミサカは懸念事項があることを伝えます」 美琴「なにか問題が?」 御坂妹「お姉様の脳に過負荷が掛かることは避けられません、とミサカは警告をします」 御坂妹「恐らくは、もって5分前後。解析に3分、書き込みに2分かかるので時間はギリギリです、とミサカはネットワーク上での試算を述べます」 御坂妹「そして5分を越えれば脳に深刻なダメージを受ける可能性が高いです。それでもやるのですか? とミサカは分かりきった質問をします」 美琴「……当たり前よ」 御坂妹「…………一つだけよろしいでしょうか?」 美琴「なに?」 御坂妹「ミサカ達にはお姉様が必要です。それだけは忘れないで下さい、とミサカは全ミサカを代表してお姉様に告げます」 美琴「……大丈夫よ。明日にはみんなで笑っていられるように、ね?」 美琴「話は聞いてたわね?」 神裂「ええ、科学的なことはあまり良くわかりませんが、記憶を別の形にして読み取るのであれば問題はないはずです」 ステイル「僕達は僕達に出来る事をする。だから後の事は――――――頼む」 美琴「任せて」 御坂妹「お姉様、全妹達への通達完了しました、とミサカは報告します。一部調整中の個体を除き睡眠中の個体もたたき起こしあります、と全員準備完了であることを告げます。いつでもどうぞ」 美琴「ありがとう。時間は?」 神裂「ちょうど午前0時になったところです」 美琴「OK、始めるわよ」 美琴はチョーカーのスイッチを入れ、MNWとの同調を開始する。 するといつも接続するのとは違い、自身の脳の回転が際限なく高められていくのを感じる。 美琴(すごい……) 感じるのは圧倒的な全能感。 少々持て余し気味な感はあるが、周囲にある電子一つ一つを正確に把握することすらできる。 この瞬間、演算能力に限った話ではあるが、御坂美琴は学園都市におけるあらゆる存在を遙か凌駕した。 美琴(いける!) インデックスの額に手を当て解析を始める。 正確に慎重に、それでいて最速に。 一つ一つを正確に、一瞬で読み取っていく 2分38秒後、予定より少し早くすべての解析は終わったのを確認し、美琴はMNWの接続を切った。 美琴「………………終了よ」 ステイル「こちらも術式の準備は完了した」 神裂「終わるまでまだしばらく掛かるので少し休んでいてください」 美琴「そう、させてもらうわ…………」 途端、美琴は体中の力を失い、倒れそうになった所を御坂妹に支えられる。 早くも演算力強化の反動が来たようだ。 御坂妹「お姉様!」 ステイル・神裂「!!!」 美琴「……大丈夫、ちょっと疲れただけだから」 御坂妹「ですが……」 美琴「大丈夫だから、ね?」 御坂妹「…………わかり、ました」 美琴(とは言ってみたものの、結構やばい、かな…………少し、休まない、と) 少しでも回復をするため、美琴は意識を闇に落とした。 美琴「…………ん」 御坂妹「目を覚ましてしまいましたか…………」 目を覚まして欲しくなかった、そう言ってるようにも聞こえた。実際そうなのだろう。 分かっていてあえて美琴はそれを無視した。 美琴「今、何時?」 御坂妹「午前一時ちょうどです。儀式はつい先程終了したようです、とミサカは報告します」 美琴「そっか、ありがと。んじゃ、もう一仕事やるとしますか」 ステイル「…………いいのか? どう見ても君はもう限界のはずだ」 神裂「そちらの妹さん、貴方が眠っている間泣きそうでしたよ?」 御坂妹「ミサカは…………」 美琴「ごめん…………それでも私、やらないと…………」 御坂妹「まったく酷い姉です。でも、お姉様なら、そう言うと、思って、ました、とミサカは……ミサカ、は……」 今にも泣き出しそうな様子に、美琴は胸が苦しくなるのを感じる。 同時に不謹慎ながらも、自分の為に泣こうとしているのが少し嬉しくもあった。 美琴は思う、この子のためにも必ず成功させようと。 誰も犠牲にならず、必ずみんなで笑って居られるように、と。 美琴「大丈夫、もっと姉を信用しなさい。ほら泣かないで、美人が台無しよ?」 御坂妹「…………それは自画自賛のつもりですか? とミサカはナルシストなお姉様に呆れ返ります」 美琴「う、うるさいわね! ……まあ調子が戻ったみたいだし、早いとこ全部済ませてちゃうわよ」 そう、早く全て終わらせなければいけない。 美琴の脳は既に悲鳴を上げている。1時間に満たない程度の睡眠ではろくに回復もしていない。 御坂妹の言う通り残り時間は後2分、その間に全ての記憶をインデックスに書き込まなければならない。 演算強化には慣れた。恐らく書き込みは1分程で終わるはず。余裕を持って終わる時間だ。 十分な勝算を持って再び美琴はチョーカーのスイッチを入れた。 書き込みを始めておよそ30秒後、異変が起こった。 美琴(演算速度が、落ちてる……!?) 或いは事前に何度か演算強化を体験しておけば結果は違っただろう。 経験不足が美琴はペース配分を誤まらせた。 そのため既に限界に近い美琴の脳は、MNWによる演算強化を完全には発揮できなくなっていた。 60秒で終わるはずの作業が70秒、80秒経過しても終わらない。 だが、今書き込みを止めるわけにはいかない。 歯を食いしばり、作業をすすめる。既に予想限界時間は経過した。 御坂妹が強制的に演算補助を止めようとしたのを空いている手で制する。 止めてしまったらインデックスの脳に重大な後遺症を残す可能性がある。 周りがなにか叫んでいるが、既に美琴の耳には聞こえない。 脳が沸騰したように熱いが、ただ黙々と続ける。 いよいよ本当に限界なのか視界が赤く点滅し、徐々に狭まってきた。 トマレトマレトマレトマレ、そう身体が叫んでいるが美琴はそれを無視して書き込みを続ける。 ――エピローグ 美琴「はーい、どうぞー」 コンコン、とノックされた病室の奥からの元気な返事に応えて恐る恐るインデックスは病室へと入る。 ベッドの上に視線を向けると何も変わらない大事な友達の姿がそこにあった。 禁書(生きててくれた……) カエル顔の医者から話だけは聞いていた。 それでも自分の目で美琴の姿を確認出来て涙がこぼれそうになる。 助けてくれたお礼を言うべきか、はたまた心配掛けさせられたことを怒るべきか。 そんな甘いことを考えていたインデックスに、至極当然な質問を『御坂美琴』は投げかけた。 美琴「あなた、病室間違えてない?」 禁書「……、っ」 インデックスはカエル顔の医者が言っていた事を思い出す。 ――あれは記憶喪失というより、記憶破壊だね? 無茶な能力の使い方で脳細胞が焼き切れてるね? あれじゃ思い出すことはまず無いと思うよ? ふと、ベッドの隣の椅子に座って俯く御坂妹に目をやる。 表情は見えないが肩を小刻みに震わせ時折嗚咽を漏らしている。 事前に話を聞いていて覚悟は出来ていた。はずなのに、どうしても視線は下を向く。 美琴「ねぇ、どうしたの? この子もあなたも、ここに来るなり黙って下むいたままで。具合でも悪いの?」 禁書「ううん、大丈夫だよ?」 心配しなければいけないのは自分なのに、気を使うのは自分のほうなのに。 こんな所ばかり変わらないのがひどく恨めしい。 美琴「………………ねぇ、もしかして私達って知り合い、だったりするの?」 美琴の口からインデックスにとって一番辛い質問が出される。 だってそれは何も、本当になんにも覚えてないと言ってるのだから。 禁書「みこと、覚えてない? 私達、学生寮の裏庭で出会ったんだよ?」 美琴「学生寮? それって私の?」 禁書「……みこと、覚えてない? 私をみことの学校に案内してくれるって言ったの」 美琴「――私、どこの学校に通ってたの?」 禁書「…………みこと、覚えてない? みことは私のために魔術師と戦ってくれたんだよ?」 美琴「みことって、だれ? 私のこと?」 口を開いた数だけ否定される大事な思い出。 それでも、これだけは言っておかなければいけない。 禁書「みことは、インデックスの大事な友達だったんだよ?」 美琴「インデックスって、え? 私、目次を見て友達とか言う寂しい子だったの? 目次ちゃん遊びましょうとか、ないわ……」 禁書「……ふぇ」 もう限界だった。いっそ我慢せずに泣き出したかった。 けれどその衝動を全て飲み込んで、泣いているようにすら見える笑顔を浮かべた。 御坂妹「…………っく、くくくっ。も、もうダメですとミサカはプククク」 美琴「ぶはっ! あ、アンタ、くくっ、が、我慢しなさいよ! 私だって、くくっ、我慢して、たのに!」 禁書「……………………はえ?」 あまりに唐突に空気が変わり、予想すらしていなかった光景にインデックスはしばし呆然とする。 あれなにこれ? 私のシリアスはどこ行ったの? と言った感じだ。 御坂妹「む、無理です、ククッ、とミサ、カは、目次ちゃん、と戯れるお姉様を、ブホッ、想像、くくっ」 禁書「あれ? え? な、なんで笑ってるのかな?」 美琴「あーごめんごめん。なんかインデックスだけ一人シリアスな雰囲気なのがおっかしくって、くくっ。あーお腹痛い」 禁書「え? え? 今私のことインデックスって……」 美琴「うん、だって私記憶ちゃんとあるもん」 禁書「え」 禁書「ええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!????????」 禁書「な、なんで!? だ、だってみことは脳みそが焼き切れちゃったって! それで……!」 美琴「確かに私は一回記憶を失ったわ。けどね、事前にバックアップを取っておいたのよ。あんたを助けた時に使ったMNWにね」 禁書「じゃ、じゃあさっきのは……」 美琴「んー、ハッピーエンドだから出来る悪ふざけって奴?」 禁書「そ、そんなぁ……」 あまりといえばあまりな言葉にインデックスはヘナヘナと崩れ落ちる。 無理もない、病室に入るのだって中々決心がつかなかったぐらいなのだ。 御坂妹「まあ良いではないですかみんな無事だったことですし、とミサカは場を和ませる発言をします」 禁書「全然良くないんだよ! 私がどれだけ心配したと思ってるの!?」 美琴「まあまあそう怒んないで」 禁書「みこともクルービューティーも知らないんだよ!」 べーっと舌を出し怒り心頭といった感じでインデックスは病室から出て行った。 美琴「あ、ちょっと待ちなさ……行っちゃった」 御坂妹「……話さなくてよかったのですか、とミサカはお姉様に問いかけます」 美琴「ん? なにが?」 御坂妹「お姉様の記憶のことです、とミサカは完全ではないお姉様の記憶を指摘します」 あの晩、美琴はMNWへ自分の記憶のバックアップを取った。 だがインデックスのタイムリミットが迫っていたため全てを保管することは叶わなかった。 美琴「……いいじゃないあの子のことは覚えてるんだし。勿論後悔もしてないわ。大事な記憶がなくなってたとしてもね」 御坂妹「何故ですか? とミサカは問いかけます」 美琴「さっきのあの子の悲しそうな顔、見てられなくって笑ってごまかしちゃったじゃない?」 御坂妹「は、はぁ(ミサカは本気で笑っていたのですが……)」 美琴「私は多分あの子に泣いて欲しくなかったのよ」 御坂妹「結果無茶をして泣かせるハメになりましたけどね、とミサカは図星をつきます」 美琴「うるさいわねー、いいじゃない。そりゃあ、何一つ失う事なくってのは無理だったけどさ」 一呼吸置き、心からの笑顔で答えた。 美琴「みんなで笑って日常(ここ)に帰って来れたんだから」 ―完― 作者あとがき
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/3201.html
SAO(「そ」してまた「あ」の馬鹿に「落」とされる美琴) 白い純白のドレスのような甲冑を身に纏い腰にレイピアを携えたその少女は、両手に大量の荷物を抱えたまま、深くため息を吐く。彼女の名はアスナ。最強と名高い攻略組ギルド、「血盟騎士団」の副団長だ。「はあぁぁ…この状況、あの馬鹿だったらきっと『不幸だー』とか言ってるんでしょうね……」…の、コスプレをした美琴である。特徴的なロングの髪は、オサレなウィッグでカバーしている。ここは第三学区にある国際展示場。今は学園都市最大の同人誌即売会会場となっている。要するに毎年お盆と年末に『外』の世界でやるアレの、学園都市バージョンみたいな物だ。学園都市にも、一般的に「オタク趣味」と呼ばれている物を生き甲斐にしている者はいる。(青髪など)しかし学園都市のセキュリティの固さから、夏休みや冬休みでも長期で外出できない生徒は少なくなく、例のイベントに参加したくてもできない者も多い。ならば学園都市でも似たようなイベントをやってしまえと、半ば強引に開催された訳なのだが、どうやら概ね好評なようだ。しかし盛り上がる周囲の人間とは対照的に、美琴は何だかどんよりしている。両手からぶら下がった荷物の中には大量の薄い本【せんりひん】を詰め込み、コスプレまでして、イベントを最大限に満喫しているというのに。「やっぱり断れば良かったかな~…? でも初春さん、あんなに楽しみにしてたし……」そう。美琴がここにいる理由は、初春に頼まれたからなのだ。初春は以前から、今日のこの日の事を、待ち遠しそうに語っていた。ご丁寧にも、コスプレ衣装まで発注して。しかし不幸にも風紀委員という立場から、イベント当日に警備として駆り出され、同じく風紀委員の白井と共に裏方に回されてしまったのだ。だが当然、裏方には自由時間などなく、楽しみにしていたイベントでも回る事などできない。そこで白羽の矢が立った【なきつかれた】のが美琴だった。本来ならこういうのは、フットワークが軽く何事でも楽しめる佐天の役目なのだが、彼女は三日前から実家に帰省している。学園都市に帰ってくるのは明後日だ。仕方がない。そういう訳で、美琴は初春の代わりに何十冊ものBL本(勿論、初春の趣味)を買わされていたのだ。しかしそれなら、何もコスプレまでする必要はなく、美琴も抗議したのだが、初春から「だって、せっかく作ったのに勿体無いじゃないですか! オーダーメイドですよ!?」というよく分からない理屈により却下された。「にしてもあっついわねー……えっと次は…E32のaか」初春から渡された紙切れ【メモ】をカバンから取り出し、次の目的地を確認する美琴。その時だ、「あのー…すみません……」何者かに話しかけられた。実は美琴が憂鬱だったのは、これも原因だったのだ。会場に入ってからというもの、やたらと話しかけてくる男が多いのである。元々美琴は顔立ちが端正(本人は自覚なし)で、その上コスプレ自体の出来も非常に良く、更にはこの「アスナ」というキャラクターも人気が高いらしい。なので、写真を撮られるのはまだいい。ここがそういう場所である事は、美琴も理解している。しかし、明らかにナンパ目的で声をかけてくる輩に腹が立つのだ。何度も何度も知らない男からメアドを聞かれれば、そりゃあ嫌にもなるだろう。美琴はうんざりしながらも、声のした方向に振り向く。ナンパなら、電撃の一発でも威嚇射撃【おみまい】してやろうかと思ったのだ。だがそこには、 「あ、やっぱり美琴か。自信なかったから『すみません』とか言っちゃったよ。 つーか意外だな…美琴って、この手のイベントに興味あったっけ?」黒い服を着て、背中に二振りの片手剣を差した、コスプレ姿の上条が立っていた。美琴のどん底だったテンションが、一気に跳ね上がる。「なあああああん!!? ア、アアア、アンタこそ何でこんなとこにいんのよっ!?」跳ね上がりすぎて、少々テンパってしまったようだが。「いや、俺はアッチの企業ブースでバイトしててさ、この衣装も宣伝だっつって着させられた。 俺が今バイトしてる企業の看板キャラだしな。 …俺も詳しくはないけど。 で、今は昼休憩なんだけど、イチイチ着替えるのもメンドイからこの格好のままなんだ。 …でもさ、メシ食おうと思ってたんだけど、どこも混んでるわ値段は高いわで諦めた…」「へ、へー…そーなんだー……」色々と説明してくれたが、美琴は上条の話を半分も聞いていなかった。何故なら、(うわっ! うわっ! うわ~~~~!!! コイツのコスプレとか初めて見た! ど、どうしよ…写真撮りたい、けど…… 迷惑だって思われちゃうかな!? でもでも! こんなチャンス今しかないし~~~っ!!!)とまぁ、そんな事を考えていたから。想定外も甚だしいと言わざるを得ない程の不測の事態に、流石の美琴も演算が追いつかない。だがこのまま黙っていても気まずいし、上条自身も美琴に用がある訳でも無さそうなので、この場から去ってしまうだろう。なので美琴は、とりあえず場を繋ぐ為に会話を続ける。何をするにしても、上条がいなくなってしまっては後の祭りなのだから。…と言うか、初春から頼まれたおつかいを忘れている気もするが、いいのだろうか。「えっと、えっと……そ、そう! アンタのそのキャラ、何ていうの!?」「あ、これ? 『キリト』ってんだけど…知らないのか?」若干「信じられない」といった表情で聞いてくる上条。美琴は、マンガ(主に月曜日と水曜日に発売される三冊の週刊誌)は読むがアニメはあまり観ない。なので上条が扮しているキャラも知らない。なので上条が何をそんなに不思議がっているのかも分からないのだ。「何よ…そんなに有名なキャラなの?」「いや、つーか……美琴のそのキャラと原作同じだぜ? 俺のって」「えっ!!? そ、そうなのっ!?」完璧なまでに寝耳に水である。美琴は自分のキャラについて、初春からは「アスナ」という名前以外を聞かされておらず、その他の細かい設定は全く知らなかったのだ。急遽頼まれたから仕方が無いとはいえ、全国のレイヤーさん達を敵に回すような行為である。「ああ。俺が主人公で、美琴はヒロインな」「ふ、ふ~ん? アンタが主人公で、私がヒロイン、ね。…ふ~ん……」想像して、思わずニヤニヤしてしまう美琴。しかし次に語られた設定に、美琴はニヤニヤする暇さえ無くなる事となる。「そうそう。それと俺(のキャラ)と美琴(のキャラ)、(ゲーム内で)結婚してるんだよ」「……え? …ふぁえっ!!!? け、けけけ、けこ、結婚っ!!!?」「ああ。あと確か、(AIだけど)娘もいるはずだ」「むむむむ娘えええええぇぇぇぇぇぇ!!!?」想像の許容量を超えて、美琴の頭はパンク寸前に追い込まれた。上条の、わざととしか思えない絶妙な説明不足で、まるで上条と美琴が結婚して娘もいるかのようだ。これはあくまでも、キリトとアスナの話で、しかもゲーム内での設定である。 美琴の脳内に一瞬だけ、未来の上条と美琴【じぶん】と『まだ』顔も知らない娘が、3人で仲良く団欒している情景が浮かび上がったが、顔をブンブンと横に振ってそれを打ち消す。美琴だって馬鹿じゃない。今までの経験上、『深い所』まで妄想してしまったら、自分が『ふにゃー』してしまう事ぐらい分かっているのだ。だがそんな美琴の幻想をぶち殺すかのように、上条は言葉を続ける。「つっても、俺と『キリト』は似ても似つかないけどな。 あっちは俺と違って女の子からモテまくってるし…まぁ、そのせいで反感買ったりもするみたいだけど」「………へーーー…」上げて落とされるのは慣れている。だって相手は上条なのだから。上条が語った「キリト」のエピソードに、ものっ凄い既視感を覚える美琴。と同時に、名前とコスチュームしか知らない「アスナ」に対して、同情心と親近感が芽生えてくる。似ても似つかないどころか、ソックリである。と、その時だ。上条は何かにハッとしたように時計を見る。「うわヤッベ! もうすぐ休憩終わりだ!」「ああ…今バイト中って言ってたもんね。けどお昼は諦めたとか言ってなかったっけ?」「いや、昼飯はいいとして、トイレには行っとかねーと!」「あ、そ、そうね。それは大事…よね」すると上条は、自分の荷物を美琴に預けた。キョトンとする美琴に、上条は矢継ぎ早に言葉を被せる。「悪ぃ、これちょっと持っといてくれ! 俺が持ってるより、美琴が持ってた方が安全だしさ!」上条は何かと不幸に巻き込まれやすい。サイフや貴重品が入っているバッグは、確かに自分で持っているより美琴に預けた方が安全だろう。こんな人ごみの中では、落としたり無くしたり壊されたり盗まれたり…とにかく不幸イベントが起きる条件は、十分すぎる程に満たされているのだ。「え、わ、ちょ、ちょっとっ!?」「じゃ、頼むな!」美琴の反論も聞かず、上条はその場を立ち去った。残された美琴は、「えー…?」と不満を漏らすが、それをぶつける相手はもういない。仕方なく、美琴は上条のバッグを見張る事にした。せめてもの復讐にと、上条のバッグを椅子の代わりに腰掛けて。だがその時、美琴はある事に気づく。「…? 何かしら、この布……ハンカチ?」バッグのファスナーからはみ出た、白い布のような物。最初はハンカチか何かだと思ったのだが、よくよく見てみるとそれは、「あっ、Tシャツか」だった。恐らく上条の着替えだろう。流石にコスプレしたまま電車に乗る訳はないのだから。と、ここで、そこに気づいた美琴に悪魔の囁きが耳に届く。(……アイツって、普段どんな服着てんのかしら… いつも会う時は、学校の制服だし……私服って意外と見た事ないのよね…)人の荷物を勝手に開けてはいけない。そんな事は子供でも知っている。しかし人間は欲深き生き物だ。イケナイ事だとは頭で理解しつつも、(ちょっとだけなら…)理性が本能に負けてしまう時だってあるのだ。美琴は周りをキョロキョロと見回し、誰もこちらに注目していない事を確認して、サッとファスナーを開け、ササッとTシャツを取り出し、サササッと広げる。すると、「………無地て…」ただただ真っ白いだけのTシャツが目の前に現れた。骨折り損にも程がある。「…うん、まぁ、アイツが普段、柄の無いTシャツを着てるって分かっただけでも収穫かな?」そう言い聞かせ、Tシャツを証拠隠滅しようと【しまいこもうと】する。だがここで、美琴に二度目の悪魔の囁き。 美琴は何かを思いつき、Tシャツを仕舞うその手を止める。そして再び…いや、先程以上に周りをキョロキョロと見回し、そして、………すん…とTシャツのにおいを嗅いだ。瞬間、「何してんの?」「ほい来たああああああああああ!!!!!」背後から上条に話しかけられた。正面と左右には気を配っていたが、後ろがガラ空きだったようだ。美琴はビックリしすぎて、「ほい来た」という謎の掛け声と共に、手にしていた上条のTシャツをブン投げる。「うおおおおい! 本当に何してんの人のTシャツにっ!」「ううう、うっさい! ア、ア、アンタが早く来すぎるのが悪いのよ!」「上条さん何も落ち度なくね!?」男は女性と違って、お手洗いで化粧直しする必要も無く、「小」ならば個室に入る事も無いので、回転率が高い。おかげであまり時間をかけずに、する事だけして直ぐ戻って来られるのだ。美琴としては不幸な事に。上条は『何故か』投げ飛ばされた自分のTシャツを拾い上げ、パンパンと叩き埃を落とす。そして自分のバッグに仕舞おうとしたのだが、その時、「ったく……美琴ってたまに奇行に走るよな」と美琴に話しかけながらだったので、自分と美琴のバッグを間違えてしまった。もっとも、美琴が上条のバッグを椅子にしていた事も原因の一端だったのだが。上条がファスナーを開け、その中を見た瞬間、「「あ」」と二人同時に発した。そう。上条が自分の物と間違えて開けた美琴のバッグの中には、初春の頼まれて買ったBL本が、所狭しと詰め込まれているのである。「ちちち違うからっ!!! これは私のじゃなくて―――」上条が何かを言う前に、先手を取って言い訳をする美琴。しかし上条は、全てを分かっているといった優しい表情で、美琴を諭す。「いいって、気にすんな。別に恥ずかしい事じゃないだろ? こういう趣味の女の子って多いみたいだしさ」「えええええ!!? いや、ホント、そういうんじゃないの! これには訳が―――」「分かった分かった。誰にも言わねーって」「お願いだから話を聞いてええええええええ!!!!!」どうやら上条に、腐った女子判定をされてしまったらしい美琴。上条はあまり気にしていないようだが、美琴としてはたまったものではない。だが美琴が訂正する間も無く、上条は、「っと、そろそろブースに戻んないと、マジで時間が無ぇや。じゃあな、美琴」と言って、颯爽とこの場を後にしようとする。せめて一言何か言って、誤解だけでも解こうとした美琴。しかし去り際に上条からポツリと放たれた、「あっ。そう言や言い忘れてたけど、アスナのコスプレ【そのかっこう】似合ってるぞ。 ……うん、可愛いと思う」の言葉に、何も言えなくなってしまった。少し照れくさそうに捨て台詞【くどきもんく】を残した上条【キリト】は今度こそ本当にバイトに戻り、残された美琴【アスナ】は顔を真っ赤にしたまま、その場にへたり込んだのだった。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/3290.html
前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/育児日記 かおり 神裂火織。 イギリス清教に所属しながら、天草式十字凄教の女教皇も務める。 核兵器と同等の戦力である聖人であり、魔術大国イギリスでもトップクラスの力を持っている。 その彼女が、イギリスから、突如消えた。 所変わって学園都市。 とある一室に日が差し込む。 「……だから、ごめんね、うん、うん、また今度」 ピッ という音とともに、そのカエルの携帯はしまわれた。 「どうした?」 ツンツンパパは、洗い物を終わらせ、手を拭きながら問いかける 「婚后さんがね、遊ぼうって」 電話をしながら、器用に人形を動かしていたのはビリビリママだ モグモグベイビーはその人形遊びにきゃっきゃと夢中である 今日も上条家は平和だった 「でも、断った、インデックスと遊びたかったしね」 ほらほらインデックス~、なんて再び赤ちゃんに構いだした美琴を見ながら、 上条は一時何か考え、意を決して声をかけようとした 「なぁ、美琴…………ん?……!!!!」 「!!!」 「あう?」 上条達はそれに気付き、動いた。 次の瞬間、窓ガラスが砕け散る。 インデックスをかばうように抱きしめていた美琴、 さらに二人を守るように抱きしめていた上条。 3人ともケガはなく、ゆっくりと開かれた上条の目に、 その人物が映った。 「……かん、ざき?」 「お久しぶりです、皆さん」 上条当麻、御坂美琴、そして神裂火織の3人はなぜかフローリングに正座していた。 上条の右隣が美琴、二人の正面に神裂が座る。ちなみにインデックスは美琴の膝の上でケロヨンとピョンコを戦わせている。 どこかからかししおどしの「カコーン」という音が聞こえた。 「久しぶり、神裂さん」 「お久しぶりです、御坂も元気そうですね」 最初は聖人だ超能力者だでいがみ合っていた二人も、上条の冒険に付き合ううちに一緒にいることが多くなり、会話が上条の愚痴になり、いつのまにか仲良くなるという、なんか、上条の周囲は大体そんな関係だったのだった。 「で、なにしに来たんだよ?」 「……はい、まずは、その子を貸してくださいませんか?」 上条と美琴は?を頭に浮かべて視線を交えた後に、 神裂に顔を向け同時にうなずくとインデックスを渡す。 しばらくインデックスを凝視する神裂に対し、インデックスも瞬きをした後に、キョトンと頭を傾けた。 もう限界だった。 「だーーーーーーーー!! かわぃぃぃぃいいいいいいいいいいいい!!!!」 急に立ちあがりインデックスを抱きしめながら叫ぶヤマトナデシコだったもの。 なんて声をかければいいのかわからない御両親。 神裂はさらに二人を置いていく。 「なんですか? なんなんですか!!? ただでさえちっこくて愛くるしいお姿だったのに、 さらにちっこくなるとか、もうどうしてくれるんですか!!!!」 目を輝かせながら、インデックスをたかだかと掲げたり、頬をこすり合わせたり、抱きしめてグルグル回ったりする聖人。 上条と美琴はあっけにとられたあと、はたと気がつく。 この状況は、危険だ。 未だになにかを叫んでいる神裂を、あたふたと制止する。 「ま、待て!! 神裂!! キャラ崩壊どころじゃないぞ!!!」 「そろそろ元に戻って!! 読者もひいてるから!!」 後ろ向きに片足をあげ、インデックスを高い高いしながら笑いかける神裂。 手を虚空に漂わせる上条と美琴、しばらくそのまま固まっていた4人は。 「すみません、取り乱しました」 一瞬で元の位置に戻った。 しかし、過去は無かったことにはできないのだった。 インデックスが神裂の隣で遊び始める。 「こほん、……で、何しに来たんだ?」 しかし、上条は過去を無かったことにした。 上条の半分は優しさでできているのだ。 「ああ、そうでしたね」 そして、彼女は行動に移した。 「すみませんでした!!」 大和撫子の美しい土下座である。 当然2人は慌てた 「な、なんだよ急に!!」 「私があなたの家で暴れたせいで、あなたが住む家を失ったととステイルから聞きまして、この子が関わると、つい、自分を見失ってしまって……」 「あー、そういえば、そうだった」 また、借りが増えてしまった。なんていう神裂に、 あるある、とかうなずく美琴さんなのだった。 「まぁ、それはもういいよ、そんなことより窓ガラスを壊して突入するほど急いでた理由は何だ?」 「あ、それはインデックスがかわいすぎて、我慢できなかっただけです」 「全然反省してねぇじゃねえか!!!!」 うがーーーーー と立ちあがる上条を、 まぁまぁと腰にしがみついてなだめる美琴さんであった。 そのまま美琴は問いかける。 「そ、それで、神裂は何しに来たの?」 「はい、もろもろの借りを返させていただきましょう!! 上条当麻と、インデックスの面倒は、私が見ます!!!!!」 「「へ???」」 「あう?」 3人はガッツポーズしながら立ちあがる聖人を同時に見た。 少ししてようやく上条が動き始める。 美琴もおずおずと立ちあがる。 「ちょ、ちょっと待ってくれ、どういうことだ??」 「と、当麻とインデックスの面倒を、神裂が見るの?」 「はい、今日すぐにとはいきませんが、明日には新しい家を見つけようと思います」 何か言おうとしていた二人は、次の神裂の言葉で固まった。 「関係のない御坂に、これ以上迷惑はかけられませんから」 その一言に、全く悪意は無い。 だから二人は戸惑った。 本来、この状況は、いびつなのか? 「と、当麻……」 「美琴……」 上条は、迷っていた。 先ほどの電話は、 彼女の親友の1人からだったはずだ。 もし、自分達がいなければ、彼女は今ごろ楽しく友人と遊んでいたはずなのだ。 一方、美琴は、だんだん、怒りがこみ上げていた。 なぜ? そんな時、再び電話が鳴った。湾内の文字が表示される。 美琴は、もう限界だった 「じゃあ、もう、わたしは、関わらなくていいのね。友達と遊んでくる」 上条が制止する間もなく、そのドアは閉められた。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/育児日記
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/701.html
ツンのちデレデレ 御坂美琴はとある公園の自販機の前に立っていた。 時刻は昼の12時を少し回ったところ。 美琴はお金を入れてザクロコーラかヤシの実サイダーのどちらかにしようとボタンを指差し迷っている。 そんな迷っている彼女に後ろから声がかかった。「御坂ー! 今おまえ暇かー!?」 美琴がここにいる理由でもあったその声の主は上条当麻。 美琴は上条がいつもここを通るので、もしかしたら会えるんじゃないかとドキドキしながら待っていたのだ。 しかしあまりに唐突だったために美琴は自販機の押すボタンを間違えた。 ハバネロパイナップルジュース―――。「……あ、アンタねぇ! いきなり大声でビックリする…じゃな、い?」 思い切り振り返ったが、いない。 声の主が、上条当麻がいない。 しかし何か足元にある。いや、いる。それはまるで土下座をしたツンツン頭の制服姿の男子高校生のようだった。 彼は額を地面に押し当てこれ以上は小さくならないであろう体制で土下座していた。「あのさ、安いのは認めるけどそんな用事だけで一週間も私に頼るのはどうなのよ?」「いえ。お礼はもちろんさせていただきます」「あ、当たり前よそんなの!」「で・す・か・ら!」「ぅお」「今は一刻の猶予もありません。私上条当麻とご一緒頂けないでしょうか?」「…はぁ。で? 今日は何の特売なわけ?」「お一人様2点限りの納豆と牛乳で御座います」「はいはい。じゃあ行きましょうか」 その言葉を待ってましたかのように顔を上げて満面の笑みを見せる上条。 その笑顔に美琴は不覚にも頬を赤らめてしまう。(まったくもうこいつは! ひ、人の気も知らないで!) スーパーから出てきた上条と美琴は笑みを浮かべている。 上条はお目当ての特売品&タイムセールの戦利品ゲットで満足の笑み。 美琴は上条と嬉恥ずかしの買い物デートでご満悦の笑み。 しかしあまりに買いすぎた為、袋が3つになってしまい美琴が上条の寮まで持っていってあげることとなった。「何から何まですみませんねぇ、御坂さん」「べ、別にいいのよ。一番軽いやつだし…そ、それにもっと一緒にいたいし…」勿論この台詞はデクレシェンドである。「ん?」「(こ、こんな彼女みたいこと…はっ! ち、違うわよ? 困ってたから! 困ってる人を助けるのは当然よね! うん)」 美琴は周りから見れば仲のいいカップルのシチュエーションに顔を真っ赤にして俯きながら歩いている。 上条はそんな美琴を見て荷物重いか? と言ったが美琴は首を振ったので?の表情をしながらも帰路を歩いて行く。「そういや御坂。お礼」「ふぇ?」「お礼。何がいい? 財布を苦しめない事なら何でもしてやるから」「え? な、ななっ何でも? じゃ、じゃあさ! うーんうーん」「まぁ寮に着くまでに考えとけよ」 その後美琴はあれもいいしこれもいいしと悩み続けた。 上条は一体どんな事をさせられるのだとうかと少し恐怖を抱いたが、今の上条家にとって激安の食材は必要不可欠だ。 とあるシスターが食べ盛りなので。 なので上条は考えることをやめた。 そして2人は寮の前まで帰ってきた。 上条は重かったろ? 本当ありがとなと言い、美琴から袋を受け取った。 もちろん美琴は上条の部屋に行きたかったので少し不満な顔をして袋を渡す。「で、決まった?」「う、うん」「お。なになに? 上条さんに出来る事なら何でも聞いて――」「………………して」「え!」「……モーニングコール」「あ、あぁ。モーニングコールね。ビックリした…」「あ、明日から一週間! 朝7時にモーニングコールね! い、いいい一日でも忘れたらもう一週間追加!」 それから御坂美琴お姉さまの幸せな一週間が始まったのだった。 一日目。AM6 00。月曜日。 美琴は目覚めていた。 5時半には起きており、シャワーを浴びて布団の上で携帯を前に正座している。「まさか楽しみすぎて目が覚めるとは思わなかったわ」 携帯を開き時間を確認する。「…ま、まだ6時か。私どんだけ緊張してるのよ」 そんな美琴が出すオーラに何かを感じたらしく隣のベッドで寝ていた白井黒子が目を覚ます。「ん…? お姉さま? 今日は随分とお早いですのね?」 美琴はベッドから飛び上がるほどドキっとした。 白井の声が心臓にわるかったのか暫く息を荒げていた。「はぁ…はぁ…。く、黒子。お、おはよう」「お、お姉さま? どうしましたの? どこかお体が優れないので?」「う、うぅん。ちょっとビックリしただけだから…」「そうですか。…あら? シャワーをお浴びになられたのですか?」「う、うん。何か目が覚めちゃって。あは、あはは」「はっ! 今ならお風呂場にお姉さまの残り香が! お姉さま! 黒子もシャワーを浴びてきますわ」「い、いってらっしゃーい」 美琴は黒子が風呂場へ入るのを確認すると携帯を握りしめ布団に包まった。(うふふ。早く7時にならないかなー♪ AM7 02 美琴は毛布に包まって体を震わせていた。 白井はというとまだ風呂場から出てきていない。 時々「お姉さま! お姉さま! あぁあああああ!!」とか聞こえてくるが美琴はそれどころではなかった。(し、ししし心臓に悪いわね。これは。は、はやく電話かけてきなさいよ! もう2分も過ぎてるじゃな…)♪~ ♪~ ♪~【上条当麻】「きっ…きっ…きっ、来たっ!! あわわわわわわ、あうあうあうあう」 美琴は布団から跳ね上がり、なぜか髪型をチェックし始めた。 そして自分の匂いを嗅ぎ始め変な臭いじゃないわよねとか言い出した。 まぁ要するにテンパっていた。 そして落ち着きを取り戻したのかいざ通話ボタンに指を置いたところで、(はっ! 今ここですぐに出たらいかにも待ってたみたいじゃない! そ、そんなのダメよ! これはあいつの罰ゲームというか買い物のお礼というかごにょごにょ……はっ!) 切れた。コール時間49秒。 美琴の時は暫く止まっていたが、やがて携帯を握り締め某ボクサーのように真っ白になってしまった。(う…うぅ。お、終わった…もう全部終わったわ…)♪~ ♪~ ♪~【上条当麻】「っ!」 美琴は音速の3倍で飛ばすコインよりも早く通話ボタンを押した。しかし――「も!」 押したはいいが緊張しすぎて、も! としか言えなかった。(ああああああああああ! 何言ってるのよ私! き、きき…緊張しすぎ!)『あぁ? もしもし? 御坂か?』「はぇ!? あ…う、うん。お、おはよう…」『お、おはよう。おまえ今起きたのか。まぁモーニングコールだからそういうもんかもしれないが…くくっ』「な、なによ。何笑ってるのよ」『だって、も! だぜ? なかなか聞けないよな。美琴お嬢様の寝ぼけた声はよ』「~~~~~っ!! ね、寝ぼけてないわよ! そ、そそそれより電話するのが遅い!」『あのなー7時ぴったりってわけにはいかないだろうがよ。まぁそれだけ言えれば大丈夫だな。学校頑張れよ』「え? あ…うん。頑張る…」『じゃあまたなー。俺飯作らないといけないからさー』「う、うん。ま、またね」 …………。「ふー、朝からちょっとエキサイト…もといシャワーを浴びすぎてしまいましたわ。…あら? お姉さま? お姉さま?」「ふにゃー」「お、お姉ざばばばばばばばばばっ!!!」 2日目。AM6 10。火曜日。 美琴動き出す。着替えとタオルを持ち、風呂場へと消えていった。「昨日の反省を生かし、学校の準備をしている時間くらいに電話がくるタイミングの方がいいわね」「さすがに昨日は早すぎたわ。今日は冷静に行くのよ」「心を無に」「無に」「そもそもモーニングコールなんだからギリギリまで寝ててもいいんだからね?」「アイツの電話を心待ちにしてるわけじゃないんだから。だ、だから言ってやるのよ」 「あら? おはよう。もう起きてたけどご苦労様」「…だ、ダメよ。折角電話してきてくれるんだからもっと素直に」「おはよー…。まだ眠いー。何か目の覚める言葉言ってー」「…とか? んー。私のキャラじゃないわね」「で、でも! もし『ほら美琴。起きないと遅刻しちゃうだろ?』とか『もう…美琴はお寝坊さんだな』と、とか!」「『美琴…起きないと、ちゅ、ちゅちゅちゅ…チューしちゃうぞ?』とかだったらどうしようー!」「どうしようどうしようー! えへ、えへへへへへ、へへへ」「……お姉さまとお風呂ご一緒にと思いましたが今行くと危険な気がしますわ」 AM6 50 美琴は風呂からあがるとふらふらーとベッドにダイブした。 そして携帯を開き時間を確認する。 もちろん例のモーニングコールが楽しみなので足はパタパタさせていた。「あと10分かー。なんかお湯にあたりすぎたせいでのぼせちゃったわ…ま、まずい。ここで…寝る、わけ、には―――」 ………。「――ま? お姉さま?」「んぁ?」「お姉さま? そろそろ起きないと学校に遅刻しますわよ?」「黒子ー? ……え! い、今! 今何時!?」「今は―――7時45分になりますわね」「はぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」「ど…どうなさいましたの、お姉さま。 今朝はサンドイッチだったので走りながらでも食べられますわよ?」「で、でで…電話は……モーニングコールは……?」 そして美琴は携帯を開く。カエルの目はバッチリ何かを受信していたらしく光っていた。 不在着信3件。 【上条当麻】コール41秒。 【上条当麻】コール33秒。 【上条当麻】コール60秒。「…」「お、おねえ…さま?」「……、う…うぅ……」「そ、そんなちょっと寝過ごしたくらいで泣かないで下さいまし!」「く、黒子ぉー…ん?」 よく見ると何か留守番メッセージが録音してあるようだ。 そういえば60秒以上コールすると留守電に繋ぐ設定にしたような。 ま、まさかっ――― 美琴は恐る恐る留守電メッセージを再生した。『もしもし、御坂? おまえな! どんだけ起きないんだよったく! 一応留守電に入れておくから電話してないとか言うなよな? 昨日といいおまえ朝弱いのか? …まぁいいや。早く起きろよ? 上条さんもこれからご飯だからさー。じゃまたな!』「…」「お、おねえ…さま?」「……、ふ…ふふ……」「そ、そんな泣いてるんだか笑ってるんだか分からない顔で笑わないで下さいまし!」「ふふふ、ふふ、ふにゃー」「お、お姉ざばばばばばばばばばばばばっ!!!!」 PM9 30「黒子ー? 私もう寝るねー?」「え? あ、はい。随分とお早いですのね? 朝寝坊しないためですの?」「え!? う、うん。そうね。や、やややっぱり早寝早起きは生活リズムを構築する上で―――」「はぁ。まぁおやすみなさいですわ」「お、おやすみー」(今朝のお姉さまは確かにモーニングコールと言いましたわ。お姉さまがこれ程までに待ち焦がれる相手と言うと…) 黒子は美琴が寝たのを確認するとアサシンの如く忍び寄りカエルの携帯を掴んだ。 万が一の事も考え黒子は美琴からテレポートで距離を取り、着信履歴を確認しはじめる。 着信履歴は『上条当麻』の名前が大半をしめてあった。 黒子は確か学校が終わったら美琴に電話したと思ったが、これを見る限りバッチリ履歴を消されていた。(あ、ああ、あのボンクラがあああああっ! お、おお、お姉さまの一日は黒子との甘い会話から始まりますの! 邪魔はさせませんわ! 邪魔はさせませんわーーーーっ!!) 黒子はマナーモード+振動無しにして携帯を美琴の枕元に戻した。 3日目。AM6 30。水曜日。 美琴は目を覚ました。いつもは携帯の目覚ましで起きていたが今日は普通に目を覚ました。「う、うわ! もうこんな時間じゃない! 目覚まし鳴らなかったわよね? 消しちゃったのかしら… と、とにかくすぐにシャワー浴びないと!」 美琴は着替えとタオルを持って風呂場に行こうとするが既に誰かが入っていた。 まぁ、相部屋なので白井黒子以外いないのだが。 美琴は扉のシルエットに向かって話かける。「く、黒子!? 入ってるの!?」「あら、お姉さま? すみません、先に入らせていただいてますわ」「そ、そう。まだかかりそうなの?」「すみません。今入り始めたばかりでして…、軽く浴びる程度ですので20分くらいしたら出ますわ」「20分…わ、わかったわ!」(プランA完了ですわ) 美琴は20分以内に学校の支度をする。 制服出して、シャツだして、靴下だして、今日の授業で使う教科書の類を鞄にぶち込む。 漫画で見たら恐らく3,4人はいるんじゃないのかと思うほど美琴はあせっていた。(早く準備してシャワー浴びないと! あいつから電話かかってきちゃう!!) AM6 45「お姉さまー? あがりま――」「黒子! 待っていたわ! 私すぐに入ってきちゃうわね!」「は、はい。どうぞごゆっくり…」 美琴は脱衣所のドアの前で待ち構えており、黒子を入れ違いで入っていった。「…ふむ。予想通り学校の準備をして待ってましたわね。携帯は、と」 白井は机の引き出しから何やら携帯充電器のような小型の機械を取り出すと美琴の携帯にセットした。 実はこの機械携帯を充電するものではなく、携帯の残りバッテリーを正確に測れる機械。 普通の状態なら何分で電池切れになるか、会話をしていたら何分で切れるかなど。科学最先端は余り使わなそうな物も生み出すのだ。(ふむふむ。会話で12分ですか。もう少し電池使ったほうがよさそうですわね) そう言うと黒子は自分の携帯から美琴に電話をかけ通話状態にした。 もちろん美琴が風呂場から出てくるまで通話状態にしておき、服を着ている時に自分からの着信履歴を消しベットに戻す。 マナーモード解除も忘れない。 ちなみになぜ美琴の携帯はこんなに電池が少ないかというと昨日のうちに白井が色々やっていた。 そしてそんな事を知らない美琴が風呂場から出てくる。(プランB、C完了ですわ) AM6 55 シャワーから出てきた美琴は身支度をしていた。(ギリギリ5分前ね。危なかったわ)「お姉さまー。朝ごはん食べに行きましょうー」「え!? う、うん。…あー、私はもうちょっとしたら行くわ」「あら。お腹減ってないんですの?」「そ、そういうわけじゃないんだけど…。電話が…」「電話? 持っていけばよろしいじゃありませんの」「そ、そうだけど…」「ささ。行きましょう、お姉さま」「あ、ちょっと黒子ー」(プランD完了。いよいよ最後の締めですわね) 美琴と白井は寮の食堂行くと既に他の寮生も疎らにいて空いている席に座る。 今日の朝はバイキング形式になっているのだが美琴は何故か取りに行かず、ソワソワしている。「…? お姉さま? ご飯取りに行きませんの?」「う、うん。もうちょっとしたら…」「そうですか。では、わたくしは先に取りに行ってますわね」「うん。いってらっしゃい。黒子」 美琴は黒子に(引きつった)笑顔で送ると携帯を確認する。 もう7時5分。そろそろ着てもいい頃だが――♪~ ♪~ ♪~【上条当麻】(きっ…きた! 初日は待ちすぎたけどきょ、今日は…………………………………このくらいで!)「も、もしもし~…」 美琴は全然眠くないのだが眠そうな声をして電話に出た。 私はアンタからの電話なんか忘れちゃってたくらい熟睡してたのよというツンデレ思考で。 しかし、そんな素直になれない美琴に白井の積み重ねてきたプランが炸裂する。『ピロン… ピロン… ピロン…』「あ、あら? もしもし? もしもーし?」 なにやら電子音だけで上条の声は聞こえない。「んー? 寮内は県外じゃないし…はっ! ま、まさか!」 そう言って美琴は携帯の画面を見る。 そこにはバッチリ電池切れのマークと共に全アイコンが点滅していた。「ああああああああああああああああああ!!! な、なんで!? 昨日の夜ちゃんと充電したのにぃぃぃぃぃいいいい!!???」 朝。お嬢様の朝。 そんな寮内の食堂からはウフフだのオホホだの聞こえてきそうな雰囲気だっかが、この美琴の一言で全てをぶち壊した。 周りからは「み、御坂様? どうなさいましたの?」「なんですの今の?」「御坂! 飯くらい黙って食え!」だの色々言われたが、 美琴はそれどころではなかった。「と、とにかく充電! 充電しないと!!」 美琴は周りの視線に気付きもせず食堂を飛び出して行った。 しかし白井は後を追わない。何故なら白井のポケットには2人分の携帯充電器が入っているのだから。(計画通り――――ですの) PM6 45 朝の騒動から美琴は寮監にキツくお仕置きを受けたがそんな事は些細な事だった。 美琴は帰ってくるなり白井の挨拶をスルーし、ベットに倒れ込んだ。 ちなみに充電器はバッチリ元の場所に戻してある。抜け目無し。白井黒子。「う…うぅ…」「お、お姉さま? どうなさいましたの…?」「く、黒子ぉ…こ、コレ…」 美琴が持っていたのは黒焦げたカエルだった。 正確にはカエルの携帯。 何故こうなったかと言うと、朝美琴は充電器が見つからないあまり自分の電気で充電して会話しようとしたらしいのだが、 失敗し携帯をショートさせてしまったらしい。 もしかしたら普段の彼女なら成功したかもしれないが余りにも焦っていたのでとのこと。「電池もすぐ切れちゃうし…どっちみち寿命だったのかなぁ…」「そ、そうですわね…ズキズキ」「まぁ機種は変えないんだけどね。でも在庫少ないらしくて取り寄せなんだって。一週間後くらいに来るって言ってたけど」「そ、そうなのですか…そ、それは……残念でしたわね…ズキズキ」「はぁ…」「ど、どうなさいましたの? お姉さま?」「……なんでもない。う…うぅ…」「お姉さま…」 上条当麻からのモーニングコール。 3日目にして終了。 4日目。AM7 03。木曜日。 上条は美琴にモーニングコールするべく携帯を取り出す。「そろそろかけるか。それにしても御坂。あいつこの4日間でまともに出たの一回もねぇじゃねえかよ、ったく…」 そんな文句を言いつつも上条は美琴へコールする…はずだったのだが、コール出来ない。『只今電波の届かない所にあるか、電源は入っていない―――』「…………またか。昨日は最初はコール出来たけど2回目以降これだし。留守電も入れられないしで」 上条は携帯をポケットにしまうと、朝食の準備をする。 今日の朝ごはんは昨日の特売品『朝のともだち』たる名前の6枚切りの食パン。 それと牛乳にマーガリン。上条当麻の精一杯の朝食である。 上条はその6枚をもはや習慣的に、自分1枚インデックス5枚と配った。「いつもありがとうなんだよ、とうまー」「いいんだよ、インデックス。まだあると思って帰ってきたら無いっていう絶望感に比べたら、目の前でおいしく食べてもらった方が涙出ないし」「もぐもぐもぐもぐ…」「…食パン両手で交互に食う奴初めて見たぜ」 上条は1枚のパンを心ゆくまで堪能すると鞄を持って部屋を出た。 もちろんだるいし、腹も満たされていないのでいつもの台詞が口から漏れる。「不幸だ…」 そんな彼の目の前に少女が飛び出してきた。 上条は俯いていたためその少女とぶつかってしまい転びそうになる。「おっ…と。すみません。ちょっと余所見してて……って、おまえは」「あはようございますですの。上条当麻さん」「白井、黒子だっけ?」「覚えていただいて光栄ですわ。突然ですがお願いがございますの」「はぁ? ほんと突然だな、おい。…で何だよ?」「今日の放課後お時間宜しいでしょうか?」 PM6 44 白井は常盤台の寮まで戻ってきていた。 美琴はというと昨日の携帯故障+上条からのモーニングコールにありつけないショックで不貞寝してしまっている。 もちろん学校へは行ったのだが、朝の異様なテンションの低さに白井はさすがにやりすぎたと思いプレゼントを買ってきたのだ。「お姉さまー。お姉さま、起きてくださいまし」「んー…ん? 黒子ぉ? 何? もうご飯だっけ?」「それはもうすぐですわ。それよりお姉さま。あの殿方よりお姉さまへプレゼントがございますのよ」「殿方ぁー? プレゼントぉー? ………………ええええええ!!!???? あ、あああアイツがっ、わっわっわわ私に!!???」「はい。どうぞですの」 そう言って白井は美琴に綺麗に包装された真四角の小箱を差し出した。 美琴はさっきまで寝ていたとは思えないほど目をギラギラさせて、胸をドキドキさせてその小箱の包みを解いた。「……目覚まし時計?」「はいですの。お姉さまが電話に余りにお出られないから目覚まし時計を、と」「…そっか。携帯壊れちゃったし、あと3日じゃ電話出来ないもんね」「携帯が壊れてしまったことはあの殿方には言っておきましたわ」「…」「それにちょっとしたサプライズもございますの」「え? なによそれ?」「朝になってのお楽しみ、ですわ」「???」「ささっ、もうご夕食が出来てる頃ですわ。お姉さま、一緒に行きましょう」「あ、うん。…あれ? 黒子も何か買ってもらったの? その小さな袋」「え? あぁ、これは自分で求めた物ですわ。中身は耳栓ですの」「………………………なんで?」「街を誰かの血で汚さないためですわ」 5日目。AM6 55。金曜日。 美琴はまだ布団の中にいた。起きてはいるのだがだるくて起きる気になれないといったところ。 でも早くしないとシャワーも浴びれないし、ご飯も食べれないしでもぞもぞしている。 そして美琴はあと5分だけー…と言った時―――『御坂ー。起きろー。朝だぞー。いつまで寝てるんだー』「―――え!?」 美琴はガバッと体を起こすが周りにその声の主はいそうにない。 隣のベットで白井は寝ているようだが、それ以外にこの部屋に人はいなかった。「気の…せいよね。あはは…アイツの声が聞こえるとか、私いよいよおかしく―――」『そろそろ起きないと遅刻するんじゃないのかー』「なってない! やっぱり聞こえる! ど、どこから!? 携帯は壊れてるし…ん?」 美琴は昨日白井から渡された目覚まし時計を持つ。 なにかを警告しているようにランプがチカチカと可愛らしく光っており、目覚めの時間だと言う事を教えてくれているようだ。「でも鳴らないわねコイツ…私、止めたかし――」『もう…み、みさ…んん! 美琴は、お寝坊さんだなー』「こ、こここコイツだああああああ!!! コイツが喋ってたぁああああ!!!」『御坂ー。起きろー。朝だぞー。いつまで寝てるんだー』「あ…あぁ…」 目覚まし時計から聞こえてくる上条当麻の声は美琴にとって最高の目覚ましになった。 上条の言葉は棒読みだが、それでも美琴は嬉しくて顔を赤らめずにはいられない。 美琴はその時計を自分の胸に押し当て少し強めに抱きしめた。そうすると体中にその声が響き渡り幸せな気分になれる。 時計に録音されている台詞は3つだけだったが、美琴はそれだけで十分だったのか目覚ましが切れるまで止めることなく聞き続けた。 そしていつの間にか体のだるさが消え、心が軽くなった気がしたので美琴は笑ってしまった。「あは。こんなので喜んじゃうなんて…」 美琴は時計を枕元に戻すと、一回だけ背筋を伸ばし着替えを持って風呂場へと消えていった。 その足取りは軽くシャワーの音が聞こえると同時に鼻歌も聞こえてくる。「………た、たたた耐えるのですわ。お、おおおお姉さまの為ですもの。と、ところでこの耳栓全くもって役立たずですわね」 昨日白井は放課後に上条を連れて雑貨屋へ買い物に行ったのだ。 そこで美琴の携帯が壊れたから朝起きる事が難しくなったのでと上条に時計を買わせた。 その時計は声が録音できるやつで一番安いやつだった。白井は用意してあった台詞が書いてある紙を上条に渡し、その言葉を読ませた。 自分で考えた台詞で、聞いても怒りを覚えないようにしたのだが、万が一の事も考え一緒に耳栓も購入した。 それが白井の言うサプライズだったのだが、実はもう一個―――― 6日目。AM6 50。土曜日。 美琴は夢の中にいる。ふわふわと気持ちいい。 夢の中では上条との幸せライフを送っていて、いつものように夢なら覚めないでほしいと思うところだが今朝は違った。 私にはあの目覚ましがある。 あの目覚ましがあれば起きても幸せになれる。 そして―――『御坂ー。起きろー。朝だぞー。いつまで寝てるんだー』 『そろそろ起きないと遅刻するんじゃないのかー』 『もう…み、みさ…んん! 美琴は、お寝坊さんだなー』 ………。「ふにゅ…」 美琴の顔は完全に緩みきっていた。 幸せを噛み締めるように目を閉じているが口元からは甘い溜息を吐き、頬や耳は真っ赤になっていた。 今日は学校は休みなので、しばらくこのままでいようと思ったが目覚ましの声が止まってしまったので起きることにした。 ―――が。「御坂ー。起きろー。朝だぞー。いつまで寝てるんだー」 また上条の声が聞こえてきた。 あれ? おかしいな。時間過ぎたらもう鳴らないはずなのに…。「あれ…? なんで当麻っち(時計の名前。当麻+ウォッチ)また鳴ってるのー。まぁ、気持ちいいからいいんだけど」「美琴はお寝坊さんだなー」「そうよー。だって大好きな当麻の声で起きたいからゆっくりしてるんだもん」「だ、大好きなんですか」「うん。大好きー。えへへー、とうまぁー。とー、…ま?」 御坂美琴の時は止まった。 何か目覚ましの台詞違うんじゃない? って言うか今普通に会話したわよね? そして美琴は恐る恐る毛布から顔を出してみる。「…」 いない。 ホッと胸を撫で下ろす。隣のベットを見るが白井もいなかった。 シャワーかしらと思った美琴は当麻っちを持って時間を確認する。「げ。まだ7時半じゃない。黒子休日にこんな時間に起きるなんて…」 そう言った時にまた時が止まった。 おかしい。7時に目覚ましセットしたんだから鳴っても5分か10分。 でも今は30分。さっき鳴ったばかりなのになんで30分? その時美琴は何かが背後にいるような気配を感じた。 美琴の体は白井のベットの方を向いて横になっているため、ゆっくりとゆっくりと視線を壁側に向ける。 そこには。「…」 ツンツン頭の。「あ…」「よ。おはよう」 不幸そうな顔をした。「あ、ああ…アンタ……」「やっと起きたか。いやーどうよこのサプライズ。つっても考えたの白井だけどな」 美琴が恋する上条当麻が。「なっななな…い、今の……聞こえてて」「あ? 当麻っち? …いえいえ! 聞こえてませんよ? 大好きな当麻の声で起きたいとか聞こえてないですから!」「~~~~~~~~~ッ!!!!!!」 顔を真っ赤にして立っていた。「なんでアンタがここにいるのよ!!!! しかもバッチリ聞いてるじゃないーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!」「どおおおおおおおおおおおおおおおおお!!???」「ふにゃーーー! ふにゃーーーーー!! ふにゃーーーーーーーーー!!!」 美琴は上条以上に顔を真っ赤にし、上条に電撃を浴びせる。 …はずだったのだが、いち早くそれに感知した上条は美琴の手を握り電撃を封じ込めた。「あ、あっぶねぇ! おまえその可愛らしいかえるパジャマにもコイン忍ばせてあんのかよ!」「ふにゃー!!!」「お、おいコラ! 暴れんな! つか力強っ! もってかれる! 腕持ってかれる!!」「わっ忘れろーーーー!! 全て忘れろーーーー!!! 記憶を消してくれるーーーーーーーーー!!!」「やばい! 今手を離すのはやばい! 絶対死ねる。楽になれる。でも死ぬのは嫌だーーーー! 朝はパン一枚でもいいから死ぬのは嫌だああああ!!!」「離せこのバカーー! 女の子の寝顔見るなんてアンタって奴はホントに―――」「うぉ―――」 上条はよく耐えた。美琴のテンパリ時の怪力から。しかしここまでのようだ。 上条はこれから起こるであろう映像が予想できた。恐らく美琴のどこか恥ずかしい所に顔を埋め、それにさらに激怒した美琴が 上条を振りほどき電撃を浴びせるという映像が。 …はは。不幸だ。 ちゅっ。 …ん? 手はちゃんと握っている。他の所には当たっていない。 左手はベットの柵にかかっている。美琴の体にさえ触れていない。 首から下の感覚もいつもと変わりない。が。 首から上。特に唇がいつもと違った。 柔らかい何かに押し付けられているような? いなような? 唇が押し付けられているため息を吸う事が出来ず、苦しくなっていく。 ついには耐え切れなくなり口を開けるとさっきまで押し当てていた何かも同時に開く。 そのタイミングが成せる技かどうかは定かではないが、舌に何かが触れた。 味なんか全く感じなかった、というか感じる状態ではなかったのだが。それはとても官能的な触感だった。 まぁ要するに上条が美琴にキスしていた。 おはようのちゅーをしていた。 上条は状況を理解したのかゆっくりと美琴の唇から離れる。 離れる時に熱も一緒に無くなっていったのだが、自分の唇と美琴の唇とで何かよくわからない水の端が出来たため一瞬にして顔を真っ赤に染めた。「あっ…あああああの。み、さか…さん。こ、こここコレは、その…事故というか。不幸というか、何と言うか…」「ふぇ…? あ…は……ぇ」 美琴の目は完全にとろけきっているが上条の目だけを見ている事は分かった。「い、今の…私……あの…」「ち、違…くないけど! 絶対あれだぞ! あれっていうのはアレで、だ…だから……!」「あ、ああああアンタと…!「きっキスじゃないからな!!」「キッ!!???」 ボン!ボボン!ぼぼぼぼぼ…と美琴の顔が真っ赤になり、沸点を越えたのかと思うほど湯気が出た(気がした)。 美琴は手を振りほどくと顔を隠ししばらくいやんいやんしていた。「わっ私…こ、コイツと。きっキスぅを……」「み、御坂…さん?」「う…」「う?」「嬉しい…」「…ぇ」 嬉しいと顔を上げて言った美琴の顔は本当に幸せそうで顔全体を使って喜びを表現している。 恋する乙女はファーストキスは絶対に好きな人とと思っており、理想のシチュエーションとは違えど相手が相手なら嬉しいに違いない。 上条はそんな美琴の言葉と満面の笑みに、今まで築き上げてきた精神と理性が圧倒的な何かに粉砕される衝動に駆られ動けなくなってしまった。「う、嬉しいなー。私のファーストキスがこ、ここコイツとなんて…えへへ」「……ふ…」「えへへ…へ?」「ふぅ…」「ちょ…」「ふにゃー」「わあああああああっ! ちょ、ちょっと! アンタ大丈夫!?」 AM9 13 白井は浴室からではなく部屋のドアから入ってきた。きちんと常盤台の制服を身にまとい風紀委員の腕章をつけて。「ただいま戻りましたわー」「あ。黒子おかえりー。どこ行ってたの?」「おはようございます。ちょっと風紀委員の支部の方に忘れ物をしてしまいまして」「そうなんだー、…えへ」「…お姉さま。何か機嫌がいいみたいですわね?」「そ、そそ…そうかなぁ。そんな事…ない……けど」「言っておきますが今日は特別ですわよ。寮監が朝からいないからであって、あの殿方もなかなか頷かなかったんですから」「わっわかってるわよ! ……ありがとね、黒子」「………いいんですの。それより今日はどこにも出だしませんの? お姉さまが休日に部屋にいるなんて珍しいですわね」「うん。これから行くとこ」「…お姉さま? と、常盤台は出歩く時も制服姿と義務付けられてますのよ?」「大丈夫大丈夫♪ 今日寮監いないんでしょ♪」「…お姉さま? ち、ちなみに聞きますけど…どなたとお出かけになられるのですか?」「へ!? や、やーねぇ黒子ったら。ひ、1人で行くに決まってるじゃない! あは、あはは」「でしたら! わたくしもご一緒――」「ダメ」「うっ。………………と、ところでお姉さま。実はここにわたくしがこの前買った下着があるのですが、ちょっとサイズを間違えてしまいまして」「………とか何とか言って私に穿かせようってんでしょ」「ま、まさかそんなわけありませんわ!」「ふーん。じゃ、じゃあ貰っておこうかしらね。す、捨てるの勿体無いしね。うん」「え……………………………おねえ、さま?」「た、たまにはね、気分転換も大切よね! じゃじゃあ私もう行くから! ありがとね黒子~~」「お姉さまああああああああっ!!!」 美琴は白井から下着入りの小袋を受け取るといそいそと部屋と後にした。 白井は呆気にとられていたがしばらくして正気に戻る。そしてどっと冷や汗をかき自分のベットに腰掛けた。「まっまさか…サービスしすぎましたの? カマをかけた下着さえも持っていかれるとは……」「後を追うしかないですわね。わたくしのサイズでしかも布小さめのを選んだ下着なんかお姉さまが穿いたら―――」「…」「おねえさまああああああああああああああっ!! ぴっちぴち!!! ぴっちぴちですわあああああああああああああああっ!!!!」 白井はいつの間にかベットに仰向けになっていると何やらしだした。 それは何とは言わないが、テレポートの演算が出来ないような何かをしているようだ。 何をしているんだろうね。分かる人いますか? ちなみに僕はわかりませんね。 そして事終えた白井は美琴のベットへと歩み寄り目覚まし時計を手に取った。「はぁはぁ…こ、この目覚まし……こいつがやっぱりいけなかったんですわ…中身を確認すれば全部分かるはずですわ」 白井は目覚まし時計の時間をアラームが鳴る時間まで戻す。 確か録音した台詞は『御坂ー。起きろー。朝だぞー。いつまで寝てるんだー』 『そろそろ起きないと遅刻するんじゃないのかー』 『もう…み、みさ…んん! 美琴は、お寝坊さんだなー』だったはず。『美琴ー。起きろー。朝だぞー。いつまで寝てるんだー』「あ、あら? 今美琴って……?」『いい加減起きろよなー。遅刻するぞ? あの場所で待ってるぜー』「…………今、何つった?」『ほら美琴。遅刻したら何だっけ? ほ、ほっぺにch―――』 消した。アラームを消した。「お、お姉さま。まさか…まさかあの類人猿に! 認めませんわ許しませんわ信じてますわあああああああ!!!」「……そ、そうですわ。ちょっとこの目覚ましに」 7日目。AM6 57。日曜日。 美琴と白井は既に目を覚ましていたが起きあがる動きは起こさない。 美琴は昨日門限ギリギリに帰ってきたがとても満足気な顔をしていた。 あの例の小袋はというと渡した時よりもちょっと膨らんでるように見えたような、見えないような? そして白井はドキドキしていた。 目覚ましのアラームに。(ふふ。お姉さま。今目を覚まさせてあげますわ。黒子のあま~いこ・え・で♪)(えへへー。早く鳴らないかなぁー。楽しみだなー。当麻っち♪)(ドキドキドキ)(どきどきどき) カチッ―――(きたっ!)(きましたわっ!)『おねえさまぁ~ん。起きてくださいましぃ~』「……………………………………へ?」(や、やややりましたわ!)『遅刻してしまいますわよ? それとも黒子が直接起こしにくるのをお望みですのん』「と…当麻っち? な、なんで黒子の声に……黒子っちに…」(せっ成功ですわ! お姉さま! 嬉しすぎてぷるぷる震えてますわ!!)『お姉さまぁん。今参りますわね? 黒子はっ黒子はもう我慢できませ――カチッ』「……………黒子ぉ」(――はっ! お姉さまが呼んでいる! 黒子を待ってるんですわ!! 今行きますわね!!!)「黒子ぉ?」「おねえさまぁあああああああああああん!! おはようござ――――」「何してくれちゃってるのよ!! アンタはぁああああああああああああああああああっ!!!!!!」「あああああああああああああああああああああああっ!!!」『待ってたのに! 楽しみにしてたのにぃいいいいい!!!!』『あぁああああああ! お、お姉さま!! 朝からっ朝から激しすぎますわあああああ!』『誤解招くような事言うなぁああああ!!!』『あああああああ~~!!』「…ふむ。また御坂と白井か。さて、今日は首を90度曲げるだけでは済まさんぞ」 眼鏡をかけ直した寮監が208号室のドアノブに手をかける。 その日美琴は上条とデートの約束をしていたが、集合時間になってもなかなかこないので上条は不幸だと連呼していたとか。 その時間に美琴と白井は部屋で気絶していた。もちろんベットにいるわけではない。 寮監のロックで極められた後、そのまま投げ出されて部屋の隅にぐったりしている。 その後目を覚ました美琴が、当麻っち改め黒子っちの示す時間を見て光の如く駆け出したのはまた別のおはなし。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/1154.html
小ネタ 偽典の上琴 「よっす~。クッキー焼いてきたよ~」「おお、美琴か。ちょうど良かったな。今コーヒー入れ始めた所なんだ」「じゃあ牛乳も入れて。私カフェオレの方がいいな~」夏休みに入って、俺と美琴、二人一緒に過ごす時間が増えた。まあ、去年はインデックスが居てとてもスリリングな夏休みを送れたけど、彼女は今小萌先生の所でお世話になっている。時々訪ねてくることもあるけど、会う回数は美琴の方がずっと多い。鍵も家計簿もチャンネル争いの主導権も街中デートで俺の腕を引っ張る役もみんな美琴がかっさらい、もはや美琴が通い妻のような状態となって、同居人だったインデックスよりも断然俺を楽にしてくれた。今日の美琴も荷物を置いてスタスタとキッチンに向かい、戸棚から手早く皿を取りだして、クッキングペーパーを敷き、持ってきたクッキーを入れた。さらに冷蔵庫を開けて牛乳をささっとカウンターに置いて俺に渡す。皿の置いてある所とか冷蔵庫の中の牛乳の位置をしっかり覚えているあたり、もう恋人というより奥さんと呼べそうな感じだ。「お前、砂糖は?」「いらなーい。クッキーが思ったよりも甘く仕上がったから、そのままでも平気よ」「そっかー。んじゃ、俺はブラックのままでいいや。氷もつけとくか?」「ん~、氷入れると薄まっちゃうのよね~。外は暑かったけどここはクーラー効いてるし、自然にさめるのを待つわ」「ブラックのままだと熱いし濃すぎるので上条さんは入れよ~っと」学園都市製の耐熱グラスカップに熱いコーヒーが注がれる。半分ほどの所で注ぐのをやめ、一方には牛乳を、もう一方には氷を入れる。二つをテーブルの上に置き、先に俺がソファーに座る。美琴はクッキーの入った皿を手にして俺の前まで来た。「?どうした、座るなら座れよ?」「う~ん、なんか面白くないわね」「座り方に面白いとかねーだろ。こっちに座れよ」俺は右手でソファーの上のクッションをポンポンと叩いた。美琴はよく俺の他愛ない一言でビリビリと怒ったりする。だから寿命を縮めない為にも幻想殺しの射程圏内に美琴を座らせなければならない。いざというときには右手で美琴の頭を押さえつければ電撃が防げるのだ。「コーヒーならまだ冷めてないから、待ってるにしても座っている方が楽だぞ」「う~ん、そうねぇ……!!そうだ!ここにす~わろっと!!」すとっと、美琴は俺の膝の上に座った。俺が右手で叩いたクッションの上に足を置き、体をぐーんと伸ばした。これには俺も驚いた。「お、おい美琴!?そんなとこに座って行儀悪いだろうが!普通にここに座れよ!」「いいじゃない。なんか座り心地良さそうだし、背中もぐーんって伸ばせるから楽々よ」「楽々よって、お前なぁ……支えがないと落ちちまうだろうが。それに左手が塞がってクッキー食べれねーだろ?」「右手があるじゃない?」「お前がいつビリビリするかわからないだろ。右手は上条さんの防護壁なんです」「むう、なんかムカつく」「そんなことより、この状態じゃ俺が食べれねーだろうが。早くどけって」「だいじょーぶ!!ほれ、あ~ん」「………美琴さん?あなたは今上条さんに餌付けしてるんですか?」「だって食べれないんでしょ。ほれほれ、口開けてよ?」「……………」ぱくっ もぐもぐ ごっくん「はい、お利口さん。お味はどうですか?」「…確かに少し甘いな。でもクッキーってこんなもんだろうし、いいんじゃねーか」「良かったぁ~。じゃあもう一つ、あ~~~ん」「おまえなあ、その台詞もういいって。あ~~―――」ひょい ぱくっ もぐもぐもぐ ごくん「なっ!!?おい、てめぇなぁ!!フェイントとかなしだろ!!!」「あーおいしかった。だって食べたかったんだもん。もう、そんなに怒らないでよ。 ……あれ、もしかして不貞腐れちゃった?」「フンだ。美琴が意地悪するから上条さんはご立腹です」「もう、しょうがないわね。じゃあこれで許してよ」美琴は皿からクッキーを一つ摘み上げた。そして美琴の口で少しクッキーをくわえると体を起こして、俺に差し出した。「な!?お前、なにを!!?」「はひゃくくわぁうぇなふぁいよ。おふぃふぁうでひょうが!(早くくわえなさいよ。落ちちゃうでしょうが!)」美琴が俺をじっと見つめている。それだけで美琴のしたいことが俺にはわかる。なので仕方なく俺も首を伸ばしてクッキーをくわえた。ぱきん もぐもぐ もぐもぐ ごくん ごっくん「はい、よくできました。じゃあ次は……」「あーまてまて。お前に餌付けされるだけじゃなんか癪だし、次はこうしよう」俺は右手で皿から一つクッキーを摘むと、美琴と同じように少しくわえた。「ふぁい、めふぃあがれ(はい、めしあがれ)」「は~い、あ~~―――」ひょい ぱく もぐもぐもぐもぐ「あーー!!ひっどぉーい!!!!なによ、さっきはあんなに怒ってたく、んむっ――!!!??」ちゅう ぺちゃぺちゃ くちゃくちゃ ごっくん ごくん「……これ結構恥ずいな。なんかむずむずしてきたわ」/////「…………ねえ」/////「ん、なんだ?」///「いきなりで味がわからなかったから、もう一回やって?」/////「…………」////ひょい ぱく もぐもぐ ちゅう ぺちゃぺちゃ くちゃくちゃ ごくん ごっくん「……すごく甘くなったわね、これ」////////「……ああ。そろそろコーヒーも冷めたし、飲むか」///////「うん……」////美琴が立ち上がり皿をテーブルに置く。俺も立ち上がりテーブルに着いた。共に顔が真っ赤になっていた。「…じゃあ、飲むか……」////「ええ……」////ごくごく んんっけほっ「んっ、少し苦いな。豆の量が多かったかな?」「あれ?当麻ってコーヒー豆挽くようになったんだっけ?」「いくらか金が入ったからコーヒーメーカー新しくしただろ。それに付いてる豆挽くやつで作ることにしたんだ。手間掛かるけど、結構面白いぞ」「ふ~ん……ねえ、苦いんならカフェオレ飲んでみる?」「ああ、いいね。少しくれよ」「それじゃあ……」ちゅうちゅう「……お前、まさかまたかよ…」「ん!!んんっ!!!」「…しゃあねーな……」ちゅう ごくごく「ぷはっ!!どお?おいしかった?」//////「………砂糖入れたかこれ?」/////「えっ?入れてないけど?」////「……甘過ぎだよこれ…」//////////「……もう、当麻ったら」//////////二人はテレテレしながら、今日も一緒に過ごしていく。クッキーよりも甘い甘い午後の一時を。
https://w.atwiki.jp/kinsho_second/pages/3415.html
借りたままの貴方の温もりを 常盤台中学学生寮208号室、その美琴用のクローゼット。ここには白井も知らない隠し引き出しがついている。ご存知の通り、この部屋には美琴と白井の両名が生活を共にしている訳だが、ただでさえ一緒に暮らしているのに、そこに加えて白井の空間移動の悪用と、彼女のストーキング行為&ストーキング好意により、美琴のプライバシーは無いに等しい。現に白井は度々美琴の下着を盗み出し、それを被ったりクンカクンカしたりしている。まずは自分自身を「風紀委員ですの!」した方がいいのではないか…とお思いの方も多いだろうが、そんな物は散々周りの人間【みことやういはる】から言われているので、今更である。そういった経緯があるので、美琴は自分のクローゼットに隠し引き出しを作ったのだ。クローゼットの中身は、殆ど学校の制服と短パンと寝巻きと下着と小物類で埋め尽くされている。これは常盤台中学が校則として、外出時は制服着用を義務付けているからであり、そのおかげで私服を着られる機会があまりないからだ。なので変態さん【ルームメイト】に盗られて困るような物は無い(下着は諦めた)のだが、そこはやはり女子中学生。他人に見られたくない乙女の秘密的な物もあったりする。例えばそう。今、美琴が持っている「う~~~っ…ど、どうしよう…」片袖の無いジャージとか。美琴は自分のベッドの上で、何故か顔を赤くしながらそのジャージを広げているのだが、しかしこのジャージ、片袖が無い以外にもおかしな点が多くある。まずサイズが合わない。美琴は同学年の人間と比べて、特別小柄(胸の話ではなく)という訳ではないが、それでも一回りくらいサイズが大きいのだ。そして何よりこのジャージ、驚くほどにボロボロなのである。あちこちが破れており、およそ常盤台のお嬢様が持つには似つかわしくない状態となっている。明らかに美琴の物ではない上、白井に隠しておいた事からも察っせるように、どうやらかなりのワケアリなジャージらしい。「はぁ……やっぱりアイツに返さなきゃよね…これ…」美琴はジャージを持ったまま、ゴロンと横になった。アイツに返す…つまりこのジャージは、元々上条の物だという事になる。 知 っ て た け ど ね大覇星祭の二日目、美琴はある事件に巻き込まれた。詳しい説明は省くが、その時助けてくれた人達の中には上条もいた。上条の役割は暴走した美琴と止める事だった。つまり上条は直接美琴と対峙していたのである。最終的には美琴も元に戻った訳だが、暴走中に美琴の着ていた衣服などは弾け飛んでしまい、つまりは美琴は裸同然…というよりも裸そのものだった。紳士を自称する上条がそんな状態で放っておくなんてプレイをする筈もなく、自分の着ていたジャージを美琴に着せたのである。そしてその時のジャージこそが、今、美琴の手にしているジャージという訳だ。 (今にして思えば…私ってアイツに……は、裸を…み、みみみ見られて~~~!!!)あの時はそれ所ではなかったが、今になって冷静に考えてみると中々にショッキングな事実だ。こうなったら責任を取って貰って、お嫁さんにしてもらうしかないのではないか、とまぁ、そこまで妄想した所で、美琴はハッと我に返った。「いやいやいや! 今はコレをどう返すかって悩んでるんだったわ!」美琴は再びジャージに目を向ける。上条のジャージは、あの時の状態のままで保存されており、クリーニングはしたものの、それでも上条の汗やら何やらが染み付いている事は間違いない。返さなきゃならないのは美琴も分かっている。おそらく上条の事だから『え? わざわざクリーニングして返しに来てくれたのか? そんなの、別に捨ててくれても良かったのに…』とか言いながら、ちょっと困った顔でもするのだろう。いくら毎月ギリギリの生活費でやりくりしている上条でも、ここまでボロボロになったジャージは流石に着ない。運が良くても、雑巾として生まれ変わり第二の人生が始まるだけである。しかしそれでもやはり、美琴は返しに行かなければならないのだ。何かそんな気がする。だが今までタイミングが合わず、ズルズルと気付けば11月も末。9月に行われた大覇星祭から大分経ち、もう一端覧祭も終わっている。その間にも上条とは何度も顔を合わせている筈なのだが、結果はこの通り散々なものだ。その理由の一つには、やはり上条への恋心の自覚が挙げられるだろう。ある日第22学区で見た、このジャージ以上にボロボロになった上条。そして彼の口から聞いた覚悟の言葉。その瞬間、美琴は知ってしまったのだ。自分の内側にあった、自分だけの現実すら粉砕する、その圧倒的な感情を。それで何が変わったのかと聞かれれば、端的に言うと「テンパりが酷くなった」の一言だ。それ以前にも上条と顔を合わせればワタワタしていた美琴だったが、自分の感情を自覚してからは、殊更ワタワタするようになった。遅めの初恋故の弊害である。美琴は中学生でありながら、小学生以下の初々しい反応をしてしまっているのだ。その圧倒的な感情は悪化の一途をたどっており、今では「上条」の文字を見るだけでドキドキしてしまう始末である。そんな状態の美琴が、上条の着ていたジャージなどを手にしてしまった日には、もう心臓が破裂するんじゃねーかってくらいバクバクしてしまうのである。美琴は目の前で広げたままのジャージを穴が空くほど(最初から空いてはいたが)見つめ、何を思ったのかそれをクシャクシャにして抱きかかえた。 (か、返さなきゃなんないのは分かってるけど、 も、もも、もう少しだけ堪能しちゃってもいいわよねっ!!?)いいわよねって、誰に対して言い訳をしているのか。これもジャージを未だに返却できていない理由の一つである。美琴は現状のように部屋に一人きりの【しらいがいない】時に限り、このようにしてこっそりとジャージを抱き締めたりしているのだ。冒頭で白井が美琴の下着を云々と説明したが、実は美琴も同じような事をしているのである。美琴は上条のジャージを大切そうに抱き締めたままウットリとする。「こうしてると…アイツに抱き締められてるみたいな気がしゅりゅ~♡」何とも小っ恥ずかしい独り言を漏らしながら、恍惚の表情でベッドの上をゴロゴロ転げる美琴。こんなだらしない姿を、彼女に憧れを持つ後輩達(主に白井)が見たらどう思うだろうか。「アイツの…匂いがする………♡」かと思えば今度は何とも痛々しい独り言も漏らしながら、ゆっくりと鼻で深呼吸する。クリーニングに出している為その匂いは有機溶剤の物なのだが、それでも気分的に、上条の匂いがしているような気がするのだろう。初恋をこじらせるとこうなってしまうのだ。そんな事をしていて、時間が経つのすら忘れてしまっていたばっかりに、「お姉様~! ただいま黒子が帰って参りましたの~!」「びゃアアアアあああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」このようにルームメイトが風紀委員の仕事から帰ってきた瞬間、死ぬほどビックリさせられるハメとなるのである。美琴は一人でエッチなビデオを観ていたら突然家族が帰ってきた男子学生の如く、ものっそい速さで証拠を隠滅し(具体的にはジャージを毛布の中に隠し)、誤魔化す。「おおおおおおおかえり黒子っ!!! 思ってたより早かったのね! もう少しゆっくりしてても良かったのにっ!」「いえ…いつも通りの時間でしたが…… それよりお姉様…今、何か隠されませんでしたか…?」「にゃにゃにゃにゃにゃんの事っ!!!? べっ、べべ、別に何も隠してないけどっ!!!?」白井の目がジトっとする。完全に疑われているようだ。それはそうだ。ここまであからさまに挙動不審で、怪しまれない方が不思議である。しかし美琴も慣れたもので、こういう時の白井の気の逸らし方も熟知している。「そ、そう言えば黒子! 今日プリン買ったんだけど、一緒に食べない!?」「まあ! まあまあまあ、お姉様がわたくしの為に!? 是非とも頂きますの!」どうやら、うまく誤魔化されてくれたようだ。しかしこれで白井が次に部屋を出るまでジャージをベッドの中から出す事も出来なくなり、こうして今日も、美琴は上条にジャージを返す機会を失ってしまったのだった。 ◇ちなみにその後、結局ジャージの行方がどうなったかと言えば。「ね! ね! これこれ、これ見てっ! 大覇星祭でアナタが着てたジャージ! ほら、私が変な力で暴走しちゃって、アナタが助けてくれた時のヤツ!」「うっわ! すげーボロボロじゃん…それは流石に捨てようぜ? 右袖も無いし」「絶対にイヤっ!!!」さほど遠くない未来。未だに上条へ返却はされていなかったが、そのジャージは美琴と上条…いや、『二人の上条』の共有物となっているのであった。